北総鉄道、前年の“大幅値下げ”後に「赤字447億円」を完済 実現できた理由は?:宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(1/5 ページ)
北総線がピーク時の「赤字447億円」を完済。22年の10月に「通学定期を最大64.7%引き下げ」「普通運賃を最大100円引き下げ」という運賃改定に踏み切り、話題を呼んだ。なぜ今の今まで、劇的に運賃を下げられなかったのか。
新連載・宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く:
乗り物全般ライターの宮武和多哉氏が、「鉄道」「路線バス」「フェリー」などさまざまな乗りもののトレンドを解説する。
千葉県北西部の住宅街・千葉ニュータウンを走る「北総鉄道」が、2022年度(第51期)の決算をWebサイトで公表。1999年の時点で447億円まで積みあがっていた“累損”(累積損失。鉄道事業で生じた損失の累計)の解消が明らかになった。
同社は新型コロナウイルスによる乗客減少・利益減少というダメージを受ける中、22年の10月に「通学定期を最大64.7%引き下げ」「普通運賃を最大100円引き下げ」という運賃改定に踏み切り、話題を呼んだ。
値下げ後(2022年度下期)の乗客数は上期と比較して約12%も増加。営業利益は約3%減少したものの、ほぼ前年並みの純利益17.5億円を計上した。
「40年来の累損解消」という最重要課題がかかった年度に、値下げという利益減少のリスクを伴う経営判断は、相当な度胸が必要だ。北総鉄道は、このタイミングで運賃値下げに踏み切った理由を「利用者の声や沿線自治体のまちづくり施策との整合性などを総合的に勘案(中略)利便性の向上や事業基盤の維持・向上に資するため」と述べている。分かりやすく言い換えると「千葉ニュータウンなど北総鉄道・北総線住民が住みやすく、他地域からの転入も呼べるように」値下げしたと言えるだろう。
裏を返せば「北総鉄道の運賃体系はこれまで利用しづらかった」ということでもある。実は、同社の運賃体系は他のJR・私鉄各社よりかなり高く、北総鉄道の沿線を転居先として選んでもらえない要因にもなっていた。
「財布は落としても定期は落とすな」(財布の中身より北総鉄道の定期の方がはるかに高い)、「北総高額鉄道」(前社名「北総開発鉄道」をもじって)とも言われた運賃の値下げは、沿線住民の長年の願いでもあり、同社としてもこれ以上先延ばしできない事項だったのだ。
とはいえ、北総鉄道はなぜ447億円までの赤字(累積損失)を積み上げてしまったのか。そして、なぜ今の今まで、劇的に運賃を下げられなかったのか。1979年の一部区間開業から同社がたどった歴史を振り返りつつ、理由を探ってみよう。
北総線が赤字を積み上げたこれだけの事情
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