人的資本開示、企業価値は何で決まる? 投資家が見る「3つのポイント」:会社全体で考える「人的資本」(3/4 ページ)
23年1月31日に改正された「企業内容等の開示に関する内閣府令」などが公布・施行され、今後は大手上場企業約4000社を対象に人的資本に関する情報開示が義務化されることとなっている。投資家は今後、開示情報に注目をして投資判断を行うこととなるが、どのような観点で開示情報に注目すればよいのだろうか?
企業価値向上ストーリーのある企業の特徴
では、投資家が注目すべき「企業価値向上ストーリー」はどのようなところを見るべきなのか。筆者は大きく3つのポイントがあると考えている。ぜひ企業側も参考にしてほしい。
1、経営者の本気度が伝わる
本連載の第1回でも述べた通り、人的資本経営は経営者のパラダイムシフトと意思決定が不可欠である。一部の大手上場企業などでは統合報告書を通じて、投資家をはじめとするステークホルダーに対して、人的資本投資の目的とその結果どのような成長を描くのか、明確なメッセージが発信されている。単にデータの情報開示をするだけではなく、経営者の本気度が伝わってくる企業は、トップの思いに共感する幹部社員・現場の社員も本気となって人的資本経営に取り組むことが期待できる。
2、経営戦略と人材戦略が連携している
「人材版伊藤レポート」が提示する「経営戦略と人材戦略を連携させる」ができていることも重要なポイントだ。人材戦略と経営戦略をいかに連動させていくのか、それこそが人的資本経営の実現を左右するともいえる。さまざまな人事施策を横並び的に個別に実行していくことも悪くはないが、それらがきちんと経営戦略とつながっている企業であれば、人的資本経営の実現可能性が一気に高まるからだ。経営戦略と人材戦略の連携が読み取れるストーリーが語られている企業には注目だ。
3、従業員エンゲージメントが高い
従業員エンゲージメントが高い状態とは、従業員が会社・組織の方針や戦略に共感し、誇りを持って自発的に仕事に取り組んでいる状態を指す。単純に企業に対する満足度が高い従業員とは異なり、会社・組織のために自ら積極的に行動を起こす人々である。
エンゲージメントの向上は、離職率の低下や貢献意欲・生産性向上につながり、結果として商品・サービスにおけるCX(顧客体験価値)の向上を実現する。また、顧客の定着・収益性の向上が人的資源への投資額の増加につながり、社員の感情や行動に好影響を与える経験(EX:従業員体験価値)を増やす。
ただし、単にエンゲージメントサーベイのスコアを公表しているだけでは十分とはいえない。その結果を踏まえて、経営と現場がどうコミュニケーションをとり、エンゲージメントの向上、顧客満足度・業績の向上に資する取り組みへとつなげているかが注目すべき点である。
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