新連載・宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く:
乗り物全般ライターの宮武和多哉氏が、「鉄道」「路線バス」「フェリー」などさまざまな乗りもののトレンドを解説する。
8月26日、栃木県に新しい鉄道「宇都宮ライトレール・芳賀宇都宮ライトレール線(宇都宮LRT)」(以下:宇都宮ライトレール)が開業した。JR宇都宮駅東口(宇都宮市)〜芳賀・高根沢工業団地(芳賀町)間の14.6キロを結ぶ。
宇都宮ライトレール開業の背景には、深刻な「渋滞問題」がある。新鉄道の開業で、渋滞問題はどれくらい改善されるのだろうか。
目標は「1日1.6万人利用」 宇都宮ライトレール開業の背景
宇都宮市にはJR東北本線・東武宇都宮線など南北を結ぶ鉄道はあったものの、東西方向への鉄道の開業は宇都宮ライトレールが初となる。
新しく宇都宮ライトレールの沿線となる栃木県宇都宮市・芳賀町は、地方の「クルマ社会」の典型ともいえる土地柄だ。宇都宮市だけで見ても、自動車普及率78% 、高齢者の免許返納率はたったの3%。道路状況を見ても、国道123号(宇都宮環状道路)、南北軸(国道新4号)などは広く立派で、一見すると鉄道が必要な状況には見えない。
【お詫びと訂正:2023年8月29日午前7時30分の初出で一部誤りがございました。お詫びして訂正いたします】
しかし、幹線道路から逸れるとやはり渋滞が激しく、その所要時間は「渋滞ガチャ」と言えるほど、日ごとに違ってくる。新しく開業する宇都宮ライトレールは「渋滞に左右されない東西移動の交通機関」として求められ、構想30年、事業費684億円を投じて、ようやく開業に至った。
また、宇都宮市の鬼怒川東岸地区や芳賀町には「本田技研工業(以下:HONDA)」「キヤノン」「東洋紡」「カルビー」などの工場があり、複数の工業地帯が連なる。朝晩はクルマの通勤ラッシュが課題とされているが、ライトレールの開業で、就業人口約2.2万人の通勤を快適にする狙いがある。
【お詫びと訂正:2023年8月29日午前7時30分の初出で、芳賀町には「本田技研工業(以下:HONDA)」「キヤノン」「東洋紡」「カルビー」などの工場があると記載いたしましたが、正しくは「宇都宮市の鬼怒川東岸地区や芳賀町には『本田技研工業(以下:HONDA)』『キヤノン』『東洋紡』『カルビー』などの工場がある」でした。お詫びして訂正いたします】
もちろん、宇都宮ライトレールは「工業団地への通勤需要」だけではなく、さまざまな移動需要も担う。沿線には商業施設「ベルモール」を擁する陽東地区、市内で26年ぶりに小学校が新設されるなど、人口増が目覚ましいゆいの杜などがある。かつ宇都宮清陵高校、宇都宮大学、作新学院大学などの学校も点在する。
宇都宮ライトレールは「通勤・通学需要」「渋滞多発地帯」など、他都市のライトレール・路面電車の計画よりしっかりした需要が見込めるため、何とか建設・開業に漕ぎつけることができた。さまざまな問題が生じていることは記事の最後で触れるが、この環境の中で、目標である「1日1.6万人」(平日の場合)の利用者を獲得できるかが注目される。
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