ウワサの「サラリーマン増税」の真意 政府はなぜ、転職の活性化に期待するのか:労働市場の今とミライ(1/3 ページ)
政府税制調査会が検討を打ち出した、退職金増税を含むいわゆる「サラリーマン増税」が国民の不安を招き、大きな注目を集めた。政府はこうした増税案も含む「三位一体の労働市場改革」で、どんな社会を目指しているのか。その真意を人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説する。
政府税制調査会が検討を打ち出した、退職金増税を含むいわゆる「サラリーマン増税」が国民の不安を招き、大きな注目を集めた。
岸田文雄首相は「全く考えていない」と火消しに躍起となったが、政府税調の中期答申では「退職金の支給形態や労働市場の動向に応じて、税制上も対応を検討する必要が生じている」と指摘している。中身は判然としないが、6月16日に閣議決定された骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2023)に盛り込んだ内容を反映したものだ。
骨太の方針には「退職所得課税制度の見直しを行う」と書かれている。しかもこの見直しは骨太の方針に盛り込まれた「三位一体の労働市場改革」の一環だ。実は、三位一体の労働市場改革には退職金増税以外にも、ビジネスパーソンの今後の働き方や生活を大きく左右する重要な政策が数多く含まれている。
政府はいったい、どんな社会を目指しているのか
三位一体の三位とは「リスキリングによる能力向上支援」「企業の実態に応じた職務給の導入」「成長分野への労働移動の円滑化」の3つだ。その指針はどんなものか。
まず、基本的な考え方として「キャリアは会社から与えられるもの」から「一人ひとりが自らのキャリアを選択する時代になってきた」と述べた後、今後の方向性についてこう述べている。
「職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自分の意思でリスキリングを行え、職務を選択できる制度に移行していくことが重要である。そうすることにより、内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなげ、社外からの経験者採用にも門戸を開き、労働者が自らの選択によって、社内・社外共に労働移動できるようにしていくことが、日本企業と日本経済のさらなる成長のためにも急務である」
コロナ禍ではもっぱら雇用を守ることを主眼に雇用調整助成金などの政策を実施してきたが、今後は労働市場の流動化を積極的に促す政策に転換することを宣言している。
そして、労働市場改革について「リスキリングによる能力向上支援、個々の企業の実態に応じた職務給の導入、成長分野への労働移動の円滑化、三位一体の労働市場改革を行い、客観性、透明性、公平性が確保される雇用システムへの転換を図ることが急務である。これにより、構造的に賃金が上昇する仕組みを作っていく」と述べている。
つまり、個人に対して時代が求めるスキルを修得するリスキリング(学び直し)を支援する。企業に対しては求めるスキルを明確にした職務給の導入を促し、学んだスキルと企業が求める職務をマッチングさせることで転職を促進し、賃金が上がっていく仕組みをつくっていく。これが政府の「三位一体の労働市場改革」の狙いだ。
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