“学びたくない”日本人 2000億円の投資で「給料が上がる仕組み」は作れるか?:労働市場の今とミライ(2/3 ページ)
政府がリスキリング(学び直し)支援に熱心だ。厚生労働省は2024年度の概算要求でリスキリングなどに2000億円を盛り込んだと発表した。狙いは「三位一体の労働市場改革」を実現し、賃金が上がる仕組みを作ることにある。こうした政府の取り組みに勝算はあるのか? リスキリングが浸透している実感が持てないのはなぜなのか? 人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説する。
リスキリングは「必要」でも「やりたくはない」
実際、企業によるリスキリングの状況はどうなっているのか。
連合総合生活開発研究所の「第45回『勤労者の仕事と暮らしに関するアンケート(勤労者短観)』調査結果」(2023年6月)によると、現在の勤め先でリスキリングが実施されていると回答した人は13.1%となっている。8割以上の企業では実施していないのが実態だ。従業員1000人以上の企業は22.6%、99人以下では6.1%。従業員に積極的にリスキリングさせようという企業が少ない。
一方、現在の勤め先でリスキリングを実施していないと回答した人に、リスキリングが実施されたら参加するかを聞いたところ、参加したいと答えたのはわずかに16.5%。従業員の側もリスキリングしたいという意欲に欠けている。
ただしリスキリングの必要性は感じている。「会社施策によるリスキリングの必要性」について「必要」と回答した人は全体で46.1%。「自発的に行うリスキリングの必要性」でも46.3%と、半数近くが必要だと答えている。IT機器やデジタル化の進展による仕事を取り巻く環境やビジネスモデルも変化しつつある。これまで培ったレガシースキルがどんどん陳腐化し、シュリンクしていく時代だ。そのためには新たなスキルの習得など学び直しが必要だと感じている人は少なくない。
だが必要性は感じていても実際にやるかとなると、前述の調査のように参加したいという人は少ない。なぜか。
前出の研修講師は「20代から30代前半は学習するのは当たり前という感覚だろう。しかし40代はやるべき仕事量も多く、忙殺されているうえに突然、勉強しろと言われても現実的には難しい。会社の仕事を終え、疲れているのにセミナーを受講しろ、学校に通えと言われても皆うんざりするのではないか」と語る。
50代以上のシニアはもっと厄介だ。大企業の社員の人口構成は50代以上が40%を占めるといわれ、戦力化していく必要があるが「今さら学び直しなんてやりたくないという中高年も多い。日本企業もシニアの能力開発支援はやりたがらない。できれば若い人材を入れてお金をかけたほうが生産性も上がるという本音もある」(前出講師)という。
いずれにしても、日本企業の少ない教育投資を増加させ、圧倒的大多数のリスキンリング消極派の社員に意欲を持って学習してもらうことは容易ではない。リスキリングによる労働移動(転職)以前の問題だ。
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