“学びたくない”日本人 2000億円の投資で「給料が上がる仕組み」は作れるか?:労働市場の今とミライ(3/3 ページ)
政府がリスキリング(学び直し)支援に熱心だ。厚生労働省は2024年度の概算要求でリスキリングなどに2000億円を盛り込んだと発表した。狙いは「三位一体の労働市場改革」を実現し、賃金が上がる仕組みを作ることにある。こうした政府の取り組みに勝算はあるのか? リスキリングが浸透している実感が持てないのはなぜなのか? 人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説する。
表層的で小粒な施策 日本のリスキリングに未来はある?
このような状況にもかかわらず、三位一体改革のリスキリング支援策は補助金の増額など表層的な政策が多い。具体的な政策は、三位一体改革の指針によると以下の通りである。
- 現行の雇用保険加入者の教育訓練給付について、IT、データアナリティクス、プロジェクトマネジメント、技術研究、営業/マーケティング、経営・企画、観光・物流などの講座を受講する場合の補助率や補助上限を拡充
- 教育訓練給付の「専門実践教育訓練」(最大で受講費用の70%を補助)は、デジタル分野のリスキリングを強化するためデジタル開発講座数を2025年度末までに300講座以上(現在179講座)に拡大する。
ITやデジタル分野の教育重視が目立つが、これらは民間教育会社や大学・大学院などの課程でオンライン受講ないしは夜間、土・日に受講する講座も含まれる。仕事とプライベートの合間の時間を割いて自発的に受講しようとする人がどれだけ増えるかが問題だ。
仮に受講しても、資格や学位取得まで継続できるかも課題となる。前述したように企業が設けているe-ラーニングの受講者が少ないことを考えると、長時間労働の是正など企業の後押しが欠かせない。また、リスキリングに消極的な中高年世代が意欲を持って受講するかも疑問だ。
もう1つの課題である、会社が実施するリスキリング支援については、前述した日本企業の教育投資が少ないことを前提に、三位一体改革の指針では「諸外国の経験を見ると、人への投資を充実した企業においては、離職率の上昇は見られない。むしろ、自分を育てる機会を得られたとして、優秀な人材をひきつける結果となっている。このため、企業自身が個人へのリスキリング支援強化を図る必要があると肝に銘じなくてはならない」と強調している。
しかし、具体的な政策は小粒だ。給与所得控除によるリスキリング費用の控除のほか、休業中の「雇用調整助成金」について、休業の助成率を引き下げ、教育訓練を求めることを打ち出している。なお、雇用調整助成金の助成率引き下げについてはコロナ下における雇用の維持が当初の目的であり、労働移動を阻害するとの考えからだ。
この程度の施策では企業が積極的に社員のリスキリングを支援するとは思えない。このままでは絵に描いた餅に終わる可能性も高い。
次回はリスキリングと並んで転職を促進するというジョブ型賃金(職務給)の導入の政府の狙いについて検証したい。
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