なぜ中央線は「グリーン車」を導入するのか 2つの“布石”が見えてきた:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
JR東日本が中央線快速電車に導入するグリーン車を、2024年度末の導入に向けて報道公開した。グリーン車は日本の鉄道の上級座席だが、なぜ上級座席があるのか。中央線快速電車のグリーン車導入を、大手私鉄の通勤用着席サービス列車と並べた報道もあったけれど、経営施策としては意味合いが違う。
普通列車1等車の衰退からグリーン車の拡大へ
グリーン車は日本の鉄道の上級座席である。なぜ鉄道に上級座席があるのだろう。これは日本の鉄道が世界の等級制を参考にしたからだ。日本の鉄道開業時は、1等、2等、3等で客室が異なり、3等の運賃に対して2等は2倍の運賃、1等は3倍の運賃だった。国際線航空機は基本的にファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミークラスの三等級制だ。国内線ではエコノミークラスと上級クラスの2等制、旅客船も特等、1等、2等の三等級制が多いと聞く。
日本の1等車は、展望車など最も贅沢(ぜいたく)な車両だ。ただし運行数は少ない。1960年に1等車が廃止され、2等級制になった。従来の2等車が1等車に3等車が2等車になった。69年に等級制は廃止されて、1等車はグリーン車になり、2等車は普通車になった。運賃も1等運賃、2等運賃ではなく、運賃は共通。グリーン車利用客にグリーン料金が加算される仕組みになった。
普通列車は2等級制のころから1等車の需要が少なく、ほとんど廃止されてしまった。関東では東海道線と横須賀線だけに1等車が残り、のちにグリーン車になった。これらの路線は通勤時間帯に部長以上の高給取りや政治家、日中にお金持ちが乗るという需要があった。ゆえにグリーン車は贅沢(ぜいたく)な座席として、通行税という名目の税金がかかった。
1等車が不人気だったせいで東海道・横須賀線にとどまったグリーン車が、再び拡大を始めたきっかけは「通勤5方面作戦」だ。高度成長期を迎え、通勤客が急増する。乗車率が300%を超えて「通勤地獄」と呼ばれた。そこで当時の国鉄は首都圏の鉄道路線の抜本的な対策に着手する。1980年、東海道線に横須賀線が乗り入れる形態をやめて、横須賀線を貨物線の品鶴線経由とする。疑似複々線化だ。これで東海道線も横須賀線も増発できる。
そして横須賀線は品川〜東京間で地下路線とし、そのまま錦糸町まで延ばして総武快速線と直通させた。東京駅で折り返すよりも、その先へ進めた方が時間のロスが少なく運行本数を増やせたからだ。横須賀線が総武快速線に直通すれば、当然グリーン車も直通になる。こうして総武線快速も全列車にグリーン車が連結された。
バブルとも呼ばれた好景気が到来し、グリーン車の乗客が増えてきた。座席数が足りなくなり、89年に東海道線で2階建てグリーン車が投入された。横須賀線・総武快速線も90年に連結された。89年の消費税導入をきっかけに通行税が廃止され、グリーン料金が若干値下げになったことも追い風となっただろう。
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