なぜ中央線は「グリーン車」を導入するのか 2つの“布石”が見えてきた:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
JR東日本が中央線快速電車に導入するグリーン車を、2024年度末の導入に向けて報道公開した。グリーン車は日本の鉄道の上級座席だが、なぜ上級座席があるのか。中央線快速電車のグリーン車導入を、大手私鉄の通勤用着席サービス列車と並べた報道もあったけれど、経営施策としては意味合いが違う。
2004年に普通列車グリーン車の改革が行われた
2004年に東京圏のグリーン料金制度が大変化する。湘南新宿ライン、宇都宮線、高崎線に2階建てグリーン車が連結された。同時に「グリーン車Suicaシステム」「事前購入料金」「平日/ホリデー料金」が導入された。また、「グリーン定期券」の値下げと、通勤通学定期券利用者もグリーン券を別途購入すれば利用できるようになった。「データイムグリーン料金回数券」は廃止されたけれども、贅沢(ぜいたく)なグリーン車から身近なグリーン車への転換だ。これで1等車の需要がなかった路線も、グリーン車の時代には需要があると分かった。07年に常磐線も2階建てグリーン車が投入される。
きっと中央線快速にもグリーン車の需要はあるはずだ。ただし、中央線快速のグリーン車導入には課題があった。首都圏でも上位の混雑率だ。10両編成のうち2両をグリーン車にすると、残りの8両に通勤客が押し込められて混雑率が上がる。だから2両を「追加」する。そうなると準備工事が必要になる。具体的には既存の列車58編成に追加するためのグリーン車116両の製造、44駅のプラットホーム延伸、留置線の延伸、それらに伴う分岐器の再配置。トイレの設置と車両基地のトイレタンク処理システム、トイレはグリーン車だけではなく普通車にも設置する。これは東京〜大月間の長距離運転増加を考慮しているようだ。そして架線、信号設備の改良など多岐にわたる。
15年の導入発表時は20年度にサービス開始する目標だった。それが18年には23年度末予定になり、現時点では24年度末になった。車両が姿を見せ、運休を伴う駅改良工事も進んでいる。たび重なる延期は好ましくない。あと1年半で間に合わせてほしい。
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