「バナー広告職人」はAIに駆逐されるのか オタ恋、チョコザップから見えるヒント:人間の技術(3/3 ページ)
コストパフォーマンスに優れる生成AIは、人間がやっていた広告クリエイティブの仕事にどこまで入り込むのだろうか。リスクも見逃してはならない。
AI広告のリスク
AIを広告に利用するリスクは決して小さくない。AIによって生成した人物が実在の人物に酷似している場合、他人の肖像権や知的財産権を侵害するおそれがある。AIに任せていたとはいえ、実在する特定の個人に限りなく近いイメージが生成され、それに気付かず商用利用した場合、損害賠償責任を負うリスクもある。
今回ピックアップした「オタ恋」が起用しているAI製の男性タレントについても、お笑いコンビ「タイムマシーン3号」の関氏に酷似しているとファンやSNSユーザーからたびたび指摘を受けている(ただしこのケースの場合関氏はネタに昇華しており、特に大きな問題にはなっていない)。
とはいえ、仮に肖像権や商用利用に厳しい事務所のアイドルに酷似したクリエイティブをCMなどに起用してしまうと、故意・過失を問わず莫大(ばくだい)な損害賠償に発展してしまうかもしれない。
AIが生成した映像や画像の著作権はどのように保護されるのかも論点になる。
自社の広告クリエイティブが他の広告と類似している場合、著作権侵害のリスクも考慮する必要がある。AI製のタレントが商品を「おいしい」と紹介するのは、消費者を欺いているのでは? という倫理的な問題も潜む。
人間のタレントは、自身が推薦できない商品はCM起用を断れるという前提があるからこそ「おいしい」という言葉に説得力があるが、AIタレントは広告主が言いたいことを好きに言わせることができる。
結論として、AIによる広告製作は非常にコストパフォーマンスに優れている反面、過学習の問題や他者の権利侵害、そして自社ブランドの信用低下リスクも併せ持っている点に注意しておきたい。
以上を踏まえると、広告にAIを活用する動きは単なる目新しさだけでなく、実際に認知度やアプリのインストール数増加に寄与する手段ではあるものの、リスクも大きいことが分かる。
さらに、バナー広告のようにキャッチコピーがメインの広告に関しては、まだAIが得意とする分野ではなく、AIを使うことでかえって手間が増えてしまうのが現状だ。従って、広告バナー制作者はAIに「駆逐される」と恐れるのではなく、うまく使役する方向で技術を磨いていくべきだろう。
関連記事
- 「鳥貴族に電話したらAIが出た」 スムーズなやりとりに驚きの声
鳥貴族は60店舗を対象に、電話対応にAIレセプションを導入した。電話の一次対応は対話型AIが行う。スムーズなやりとりに、SNSでも驚きの声が上がっている。 - マイナカード、「スマホに搭載」 なにができるようになる?
マイナンバーカードの機能をスマホでも利用できるサービスが11日、スタートした。まずはAndroidスマホへの対応から開始する。スマホへの搭載で、なにができるようになる? - 世田谷の「無人書店」実験、深夜と早朝に意外なニーズ 購買単価を2倍近くに押し上げた工夫とは
トーハンはスタートアップ企業のNebraskaと提携し、3月20日から同社グループの書店で、有人・無人のハイブリッド24時間営業の実証実験を行っている。実証実験の開始から約3週間が経った現時点で、前年と比較して10〜20%増収しているという。ネットでは「治安がいいから成り立つのでは」という反応も上がっている。こうした反響はどう捉えている? - 消えた学食を救え ファミマが無人コンビニで「初」の取り組み 新たな鉱脈探る
ファミリーマートは4月10日、大森学園高等学校内に無人決済システムを導入した店舗をオープンした。高等学校への導入は初となる。飽和化したコンビニ市場の次の鉱脈は? - 池袋駅構内「売らない店舗」に1日2000人来店 東武トップツアーズの狙いは
東武トップツアーズ(東京都墨田区)は、リアルとデジタルを融合した「AZLM TOBU池袋店」をオープン。日本各地のモノ・サービス・体験を発信する「地方創生をテーマにしたプロモーション特化型店舗」として展開。AZLM TOBU池袋店の責任者である持田大裕支店長に狙いを聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.