「バナー広告職人」はAIに駆逐されるのか オタ恋、チョコザップから見えるヒント:人間の技術(2/3 ページ)
コストパフォーマンスに優れる生成AIは、人間がやっていた広告クリエイティブの仕事にどこまで入り込むのだろうか。リスクも見逃してはならない。
「人力」で広告を製作するチョコザップ
その一方で、ライザップグループが経営するコスパ重視のジム業態「チョコザップ」のように、数千ものバリエーションを持つバナー広告を人力で制作し、その効果をトラッキングする事業者もいる。
確かにこのアプローチは一見、時間とリソースを大量に消費し、長期的な視点ではコスト効率や反応性の面でAIに劣るのではないかと思うかもしれない。しかし、AIの広告制作における効率化やパーソナライゼーションには「過学習」という重大な弱点が潜んでいることを見逃してはならない。
過学習とは、AIが訓練データに過度に適応し、新しいニーズや未知の状況に対応できなくなる現象である。これは広告制作においても顕著で、過学習したAIは徐々にステレオタイプな広告しか生み出せなくなり、消費者の多様なニーズに対応できなくなる可能性がある。
広告に対する顧客や消費者のフィードバックをあえて取らず、AIがおすすめするパターンを繰り返し学習させると、人間では思いつかないような斬新なアイデアを徐々に生み出さなくなる。
また、チョコザップの製作する広告クリエイティブのほとんどがタレントではなく「文字」(広告コピー)を中心としていることも、AI利用が難しい要因の一つだ。人体の描写に関する画像生成AIのクリエイティブは不自然さがおおむね克服できたものの、画像生成AIは「文字」の生成に関しては現状、全くといっていいほど役に立たないレベルだからだ。
仮に「文字」もしっかり出力できるようになったとして、現状の画像生成AIではデザインファイルと異なり、キーボードでクリエイティブの文言を打ち変えたり、位置やサイズの細かい調整を行うこともできない。例えば「コピーの文言を2文字変えて5ミリ上に動かす」といった作業をする場合、編集ソフトであれば数秒で完結するが、AIに再生成させようとするとかえって非効率だ。
結論、チョコザップのようなケースでは人間の方がAIより「優れている」「劣っている」という議論に入る前に、まだAIを実用化する段階に達していないのだ。
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