政府による「転職のススメ」 失業給付のタイムラグ解消で何が起きる?:労働市場の今とミライ(2/3 ページ)
政府が「雇用の流動化」つまり転職の推進に熱心だ。これにより日本の賃金を上げることを狙っているが、転職の推進によって本当に賃上げが実現できるのだろうか。失業給付のタイムラグ解消やキャリアコンサルタントの支援などの具体的な施策で見込める効果と懸念点について言及する。
転職支援制度に残る課題
2番目の求職者・在職者の転職支援は、資格を持つキャリアコンサルタントが職種・地域ごとに、求人の賃金動向や必要となるスキルなどの情報をベースに助言することになっている。
従来は民間の人材紹介会社のコンサルタントやハローワークの相談員が担っていたが、新たに一定の要件を満たすキャリアコンサルタントが担うことを想定している。求職者にとっては相談機能が充実することで転職の失敗を防止する上でも喜ばしい。
一方で、課題も少なくない。キャリアコンサルタントの有資格者は6万4000人いるとされるが、その中には資格はあっても相談実務や転職支援の経験のない人も多い。
キャリアコンサルタント業界の幹部は「政府から話は来ているが、キャリアコンサルタントの資格だけを持つ会社員も多い。また、転職支援の経験はあってもITなど特定の職種に通じている人は限られるし、その中からどうやって選定していくのかは大きな課題となっている」と語る。
職種・地域ごとにコンサルタントの実績を精査し、絞り込む必要があるが、どのぐらいの数のコンサルタントが求める機能を発揮するかも未知数だ。
もう一つ気になるのが、民間の人材会社との協業だ。
民間の人材会社の窓口となるのが「人材サービス産業協議会」。民間の求人広告業・職業紹介業・人材派遣業・請負業を束ねる組織であるが、ハローワークの情報や職業紹介機能を民間の人材会社に依存することを懸念する声もある。
労働市場に詳しい大学教授は「地方のハローワークは中高年層の転職先探しなどの支援をかなり熱心にやっているが、職員の人員不足もあり、情報収集力とネットワーク力が落ちている。その背景にはこれまで民間の人材会社がマーケットを開放しろという圧力をかけてきた経緯があり、ハローワークの情報を自分たちが使えるようにしたいという思惑もある。しかしハローワーク、公共職業紹介の存在価値は“セーフティネットであること”だ。スキルの乏しい人でも働き先を探すという機能を民間の職業紹介で代替できるのか、真剣に議論していく必要もある」と指摘する。
政府は「成長分野への労働移動」を掲げ、ITなど成長産業の人手不足の払拭を意図している部分も垣間見える。その結果、民間の人材会社に依存することによって中高年層やシニア世代の求職者が取り残されることにならないかという懸念も残る。
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