異質さ際立つ「カスハラ」なぜ起きる? メカニズムをひも解く:働き方の見取り図(1/4 ページ)
脅威として受け止められるようになってきたカスハラ。そのメカニズムをひも解くと、多分に異質な面があることが見えてくる。カスハラは他のハラスメントとどう違い、どんな特徴があるのか――。
世の中にはさまざまなハラスメントがあります。中には、少し嫌な思いをしたことを「○○ハラ」と新たに命名したような過剰反応と感じられるケースも混ざっていますが、ハラスメント被害は時に人命に関わるほど深刻な事態を引き起こします。
カスタマーハラスメント(カスハラ)もまた、働き手の心身に深刻なダメージを与える行為の一つとして認識されており、2023年から精神障害の労災認定基準に加えられました。旅館やホテルなどでは、改正旅館業法により23年12月から迷惑客の宿泊拒否ができるようになります。
脅威として受け止められるようになってきたカスハラですが、そのメカニズムをひも解いてみると、多分に異質な面があることが見えてきます。カスハラは他のハラスメントとどのような違いがあり、どんな特徴があるのでしょうか。
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によると、カスハラは以下のように定義されています。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
同じく厚生労働省が公表している「令和2年度職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間に「顧客等からの著しい迷惑行為」(カスハラ)に関する相談を受けた企業の比率は19.5%です。
この数字は「妊娠・出産・育児休業等ハラスメント」(5.2%)、「介護休業等ハラスメント」(1.4%)、「就活等セクハラ」(0.5%)などと比較して突出した数値になっています。しかし、カスハラよりも高い数値のハラスメントが2つあります。29.8%のセクシュアル・ハラスメント(セクハラ)と48.2%のパワーハラスメント(パワハラ)です。
職場において行われるセクハラとパワハラは、それぞれ以下のように定義されています。
セクハラ
「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されることです
パワハラ
職場において行われる(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)から(3)までの3つの要素を全て満たすものをいいます
※いずれも「厚生労働省パンフレット」より
それぞれのハラスメントについて定義を整理すると、セクハラには「性的な言動」に該当する特徴があり、パワハラには「優越的な関係を背景とした言動」という特徴があります。それらに対し、カスハラは加害者が「顧客等」であることが特徴です。
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