首都圏で急増中のコスモス薬品 物価高を味方にした戦い方とは?:小売・流通アナリストの視点(2/4 ページ)
九州を地盤とする大手ドラッグストア「コスモス薬品」。九州でトップシェアとなった後は、店勢圏を東に向けて拡大し、今まさに関東攻略作戦を進行中だ。コスモスを躍進には、物価高を味方にした戦い方がある。
スーパーより「安い食品」で集客
商品構成におけるコスモスの特徴は、売り上げの約6割を食品が占めていることだ。一般的に、ドラッグストアの主力商品は医薬品、化粧品、日用雑貨が中心というイメージだろう。コスモスは、生鮮品のないスーパーがドラッグストア商材も売っている、といった店構えであり、「フード&ドラッグ」という呼ばれ方もする。その上、売っている食品の価格がスーパーより安いため、消費者がついつい寄ってしまう店になっている。
有価証券報告書をみればその収益構造が分かるが、6割を占める食品の利ザヤ率は14%弱。全社ベースの売上高販管費率を計算上は下回る、という薄利で提供されている。これはその辺のスーパーが、しゃかりきになったとて勝ち目がない安さだ。「こんな薄利で大丈夫なのか?」と思うかもしれないが、医薬品と化粧品などで利益を確保。トータルでは利益が出る仕組みとなっているので心配ご無用、ということなのだ(図表2)。
食品を薄利で提供するので、消費者にとってはかなりうれしい存在だが、その分、進出地域の食品スーパーにとっては大きな脅威となっている。地方のドラッグストアの中にはこうしたフード&ドラッグと呼ばれる食品強化型のチェーンがいくつもあるが、おおむねコスモスと似た収益構造を持ち、食品の低価格販売で消費者の支持を得て各地で存在感を増している。
コスモスを筆頭に九州からは、ドラッグストアモリ(福岡県、売り上げ1822億円)、サンドラッグ傘下のダイレックス(佐賀県、同2885億円)、北陸からはクスリのアオキ(石川県、同3788億円)、ゲンキー(福井県、同1640億円)といった有力企業が勢力を拡大。昨今の値上げラッシュで、その勢いがさらに加速している。フード&ドラッグは、相次ぐ値上げの中で、節約せざる得ない消費者の駆け込み寺ともいうべき存在になりつつあるのだ。
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