99%が受講完了 サイバーエージェント式「学び直しに関心が低い社員」を巻き込む方法:生成AIリスキリング(3/3 ページ)
99.6%にあたる社員・全役員がリスキリングの受講を完了――これはサイバーエージェントが達成した、社員の学び直しの取り組みだ。学び直しへの関心が高まる一方、全社的にプログラムを軌道に乗せるのは簡単ではない。同社はいかにして、リスキリングプログラムを構築し、社内に浸透させていったのか。
「関心が低い社員」に受講してもらう方法
サイバーエージェントの「生成AI徹底理解リスキリング」は、先述の全社員を対象にした「for Everyone」に加え、社内に約1000人いるエンジニア向けの「for Developers」、機械学習エンジニア向けの「for ML Engineers」――と、専門性の深さに合わせて、3段階のプログラムを用意している。
for Everyoneを終え、直近(24年3月現在)は、for Developersの取り組みを進めている段階だ。同プログラムはeラーニングと開発演習を通じて、大規模言語モデル(LLM)を活用した開発スキルの底上げを目指す。全エンジニアが一斉に取り組むと現場の開発がストップしてしまうため、まずは社内公募で手を挙げた約165人からスタート。今後、受講した社員からフィードバックを受け、プログラムの内容をブラッシュアップしていくという。
LLMのモデル構築などができる人材を育成するfor ML Engineersは、24年度中のスタートを目指している。
小枝さんと友松さんにとって、全社員向けのリスキリング施策を推進していく過程で苦労したことは何だったのか。小枝さんが最も苦労したこととして挙げたのは、リスキリングに関心のある社員だけでなく、関心のない社員にいかにして受講してもらうかということだ。
小枝さんは「こちらは100%の達成を目指していても、現実はその3割が完了していればいいかなというイメージで動かれることもあり得る。本当に100%達成を目指して取り組んでいると周知するのは大変だった」と振り返る。
この点、リスキリングの受講対象に社員だけでなく、当初から役員を含めていたことは、結果的にリスキリングの全社展開を後押しした。「役員を巻き込んだ狙いは、ボトムアップとトップダウンの両方を軸に受講者のモチベーションを高めることにあった」と小枝さん。役員が受講することで「今までの施策とは熱量が違う」という空気感を生み出し、ある種の“強制感”がもたらされたことが、99%超えの受講率につながったと小枝さんは考える。
もう一つ難しかったのは、全社員に意味のある教材を作ることだった。当然、社員によって生成AIやITトレンドに関するアンテナや感度は異なる。6割の社員に意味のある教材にしようとして難易度を下げた教材を作れば、残りの4割に意味のない教材になってしまう。難易度を上げれば、その逆も起こり得る。
友松さんは「全社員が合格できるものではなく、全社員につけてほしい知識」という観点で教材作りに取り組んだという。
見えてきた課題は?
リスキリング施策を進める過程で、課題も見えてきた。生成AIの進化は急速に進むため、教材の鮮度が落ちるのも早いという。すでにfor Everyoneの教材内容が古くなっており、今後、新卒社員向けの研修で用いるために内容のアップデートが必要だという。教材アップデートの時間的コストをいかに下げていくかが今後の課題だ。
「教育は投資的な側面があり、リスキリングの効果が現れるのは学習直後ではなく、3カ月後から1年後。そういうスパンで役立つ内容をリスキリングしていかなければならず、普遍的ですぐ陳腐化しない教材作りが必要」と小枝さんは話す。
これから社員のリスキリング施策を進めていく企業は、どのようなことに注意して取り組めばよいのだろうか。小枝さんは、自社の取り組みを振り返り、リスキリングへの意識が低い社員にいかにして取り組んでもらう環境を作るかかが鍵だとし、次のように話した。
「今回の施策では、会社全体でムードを作り、ある程度の強制感を生み出すことができた。生成AIの温度感が薄い社員でも、チームや他の部署全体がやっているから『自分もやらなければならない』という第一歩を踏み出してもらえた」
「一歩を踏み出せば、意外と楽しいとか、自分でもできるんだと前向きになり、進みがよくなる。モチベーションのコントロールは、リスキリングの推進担当だけでなく、組織的に実施したほうが効果がある」
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