アップルはなぜ「自動運転EV」の開発を終了したのか 考えられる理由は3つある:高根英幸 「クルマのミライ」(3/5 ページ)
アップルが自動運転EVの開発を終了したという。かつてダイソンやグーグルもEVの自社開発を断念している。高い商品性を備えたEVの開発が難しいことに加え、自動運転は求められる技術力もリスクも非常に高い。また今後は、安全性だけでなく新たな価値提供も必要だ。
グーグルが開けた、パンドラの箱
そもそも既存の自動車メーカーは、自動運転の導入には乗り気ではなかった。開発費が膨大にかかる上に、走行中の事故に関してもメーカーの責任になる可能性が高まるからだ。
しかし、グーグルがパンドラの箱を開けてしまった以上、追従しなければ存亡の危機にひんする可能性すら出てくる。そこで自動車メーカーも、サプライヤーやベンチャーとジョイントして、自動運転を開発する競争に参加したのだ。
そしてレベル1、2と運転支援システムを実用化。レベル3のハードルの高さをどう攻略するか、自動車メーカーによって判断が分かれることになった。
ところが肝心のグーグル(こう書くとグーグルが自動運転分野をけん引してきたかのように思われるかもしれないが、実際のところはそれほど技術力はなかったようだ)は、自動運転車がビジネスベースに乗るのは当分先のことと判断するとあっさりと撤退し、子会社に移行させる。話題だけを提供して自動車業界をかき回したのに、結局「なかったこと」にするのはいささかズルい気もしなくはない。
既存の自動車メーカーに立ち向かうには、圧倒的な商品性、独自の技術力とセンスが必要だった。グーグルの「自治体などに売り込んでまとまった台数を売り、自動運転車を街中に普及させよう」というアイデアは時期尚早だったのだろう。
こうしてはしごを外された形の自動車メーカーと、先行開発分野で資金が集まりそうだと考えるベンチャーが残っただけで、自動運転分野は先の見えない戦いが続くことになったのだ。
ただしグーグルが目指していたのは少人数で移動する低速車両で、高速道路を走る乗用車や街を走るコミュニティバスとは異なる。乗用車版の自動運転車と時速25キロ程度の低速で移動するコミュニティバスでは、求められる性能がまるで違うのだ。
完全自動運転を早期に実現するのは、限られたエリアを走る低速車両になるのは当然の帰結だ。
関連記事
- ハイブリッドが当面の“現実解”である理由 勝者はトヨタだけではない
EVシフトに急ブレーキがかかっている。CO2排出や電力消費の面で現実が見えてきたからだ。現時点ではハイブリッド車、そのなかでもエンジンで発電してモーター走行するシリーズハイブリッドが最も現実的な方式だ。その理由とは…… - マツダの「MX-30 ロータリーEV」 現時点で“EVの最適解”と言えるワケ
マツダがロータリーエンジンを復活させたことで注目される「MX-30 ロータリーEV」。ロータリーエンジンを発電に使うこのクルマは、MX-30のEVモデルとは別物の乗り味だが、日常で使いやすい仕様になっている。今後のEV普及に向けて、現時点で「最適解」と言えそうだ。 - スポーツカーはいつまで作り続けられるのか マツダ・ロードスターに見る作り手の矜持
スポーツカーが生き残るのが難しい時代になった。クルマの楽しみ方の多様化や、規制の厳格化が背景にある。一方、マツダ・ロードスターの大幅改良では、規制対応だけでなく、ファンを納得させる改善を実施。多様化が進む中でビジネスもますます複雑になるだろう。 - 「東京オートサロン」はどこまで成長するのか クルマ好きをひき付ける魅力がある
今年も年明けに東京オートサロンが開催された。カスタムカーの祭典だが、自動車メーカーも積極的に出展し、クルマ好きの心をつかんでいる。環境に配慮した次世代モビリティの提案も増えた。自動車産業を支える一大イベントとして、どこまで成長できるのか。 - キャンピングカー人気は続くのか 需要維持に必要な要素とは?
日本のアウトドアブームが落ち着いてきた一方、キャンピングカーの人気は衰えていない。展示会では大型車両をベースにした展示車が増え、熟年オートキャンパーの心をつかんでいる。しかし、ブームによるマナー低下に歯止めをかけないと、衰退につながりかねない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.