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生成AIの弱点、どう補う? 楽天テクノロジートップに聞く活用法

生成AIの弱点として、データがなかったり、LLMがぜいじゃくだったりすると、ハルシネーションが起こる。楽天グループはこれをどう補うのか? ティン・ツァイCDOに、将来のAIの活用法を聞いた。

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 インターネットを軸として、Eコマース、フィンテック、通信、トラベル、スポーツなど多くのビジネスを展開している楽天グループ。2023年から一気に世界に広まった生成AIの波は同グループにも押し寄せており、企業支援のためのAIプラットフォーム「Rakuten AI for Business」を24年以降に提供することを発表するなどAIの活用に積極的だ。

 同グループのデータやAIに関する戦略・サービス・エンジニアリングならびに楽天技術研究所の研究責任者であるティン・ツァイCDO(専務執行役員、テクノロジーサービスディビジョン グループシニアマネージングエグゼクティブオフィサー)に、将来のAIの活用法などを聞いた。

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ティン・ツァイ Microsoftにてニュース&フィードチームのジェネラルマネージャー、またGoogleにてジオサーチおよびアシスタント担当のシニアディレクターを務めたのち、2022年より楽天グループ専務執行役員 CDOに就任。なお、ダートマス大学でコンピューターサイエンスの修士号を取得後、ワシントン大学でMBAを取得している

23年通期決算は赤字 携帯事業にこだわる理由は?

 楽天グループは2月14日、23年通期の決算発表をした。売上収益は前年の1兆9209億円から2兆713億円に増収、最終損失は同3772億円の赤字から3395億円の赤字に縮小した。携帯電話事業の設備投資がかさんだことが損失の原因だ。

 ソフトバンクが通信ビジネスを始めた当初、エリアが狭いなどと苦情が寄せられ苦戦していたものの、12年にプラチナバンドを獲得。「つながりやすくなる」と盛んに宣伝し顧客を増やしていった。

 楽天モバイルも23年10月にプラチナバンドを獲得したことを発表。24年内早期の開始を目指すことを、三木谷浩史会長兼社長が明らかにした

 スマートフォンは個人情報が最も多く集まったツールとも言え、つながりやすい通信により多くの顧客を獲得できれば、間違いなく楽天経済圏の拡大に多大な貢献をする。

1つのIDで管理できる強み

 ティンCDOはこれまで米Google(グーグル)やMicrosoft(マイクロソフト)などに在籍し、世界中でビジネスをしてきた。Eコマース、フィンテック、通信など幅広い業態をカバーする楽天のビジネスモデルの強みについて「1つのIDを作成すれば横断的なサービスを受けられるのがユーザーにとっての利点」だと話す。

 「マイクロソフトやグーグルのサーチエンジンの開発に取り組んできました。中小企業から大企業までさまざまなところで働きましたし、米国やドイツなどでもチームをリードしました。楽天の独特な点は、バラエティーに富んだ事業を抱えていることです。他社は事業やソフトごとにIDを作り、その後、バラバラのIDを組み合わせる作業をしています。一方、楽天は最初から1つの楽天IDを利用するスタイルなので、複数のIDのデータをマージする必要がありません。これは大きな強みです」

 楽天が取得するデータが、いかに精度の高いものかも強調する。

 「他のサーチエンジンと違い、当グループには取引データがある点が違いです。サーチエンジンは主にサーチデータを頼っており、クリックしたデータしか得られません。(ユーザーが)タイトルに関心を持ってクリックしたのか、本当に興味を持ったのかも分かりません。『戻る』をクリックする場合もあり、ノイズ(不要な情報)が入っていて本当の意図が分かりにくいのです。一方、楽天が持つ取引データは、楽天市場などで(ユーザーが)実際に購入したデータのため、精度が高いのです」

 つまり、データの質に大きな違いがあるということだ。ティンCDOは「スマホは多くのユーザーのエントリーポイント」だと話す。スマホからの「リッチかつ質の高いデータ」を使うことができれば、その精度がさらに高まる。それが分かっているからこそ、楽天モバイルは通信市場で厳しい状況が続いていても、未来に向けて踏ん張っているのだろう。

 総務省が発表した「令和4年通信利用動向調査」によると、パソコンの保有率は13年に81.7%だった。これが22年には69.0%と、基本的には「右肩下がり」となる。一方スマホは13年に62.6%で、22年には90.1%まで上昇する見通しだ。スマホの重要性は高まり続ける。ティンCDOは「お客へのリーチを考えた際に、スマホは優れたツール」だと話す。

セマンティック検索とRAGで「質の高い結果」を提供

 23年は生成AIに沸いた年だった。24年は、企業や組織向けに最適化された「エンタープライズの生成AI元年」とも言われている。

 「既存のツールと接続することによって生成AIの使い勝手が良くなります。一般的な話ですが、例えば生成AIだけでは、リアルタイムの在庫情報や価格情報は反映できません。しかしRAG(Retrieval Augmented Generation/AIモデル構築時に含めなかった情報をその場で検索し、検索結果を利用して文章などを生成する技術)を活用することによって、LLM(大規模言語モデル)とセマンティック検索や在庫情報といった外部の情報やツールを結び付け、正確でタイムリーな情報を加盟店やユーザーに提供できるようになります」

 IT業界でのセマンティックとは、収集した情報の「意味」をコンピューターが解釈できるように形式化したデータにすることだ。ユーザーがセマンティック検索を使うと、コンピューターがユーザーの意図を理解またはくみ取って、関連性の高い検索結果を提供してくれる。

 生成AIの弱点として、データがなかったり、LLMがぜいじゃくだったりすると、虚偽の情報を提供する場合(ハルシネーション)があり、これが現在、問題となっている状況だ。RAGは、LLMが生成する回答の質を向上させるフレームワークで、実装すると、不正確な情報を生成する可能性が低くなる。

 ティンCDOに、生成AIを楽天オリジナルで開発しているのかを聞くと「オリジナルのソリューションはたくさん開発してきましたし、今も開発しています。最先端かつ高機能なAI技術でも、まだ解決できないものが多くあります。楽天としては顧客にフォーカスして、顧客の課題を解決することに注力したいです」とだけ語った。

 同グループは23年8月に米OpenAIと最新AI技術によるサービス開発における協業に基本合意した。そのリリースには「楽天はグループの『Rakuten AI』技術と知見をOpenAIのプラグイン・アーキテクチャを活用したChatGPT製品開発に生かし……」と書かれている。

 LLMの開発についてはどうなのだろうか。例えばNECは23年10月に開催されたCEATEC 2024で、企業向けのLLMを開発したとアピールした。

 「楽天でも自ら開発をしていますが、オープンソースのコミュニティーから学んだり、大学とコラボしたりもできると考えています。ただ、特定の言語に特化したものを開発する考えではありません。昔は、画像認識用など特定のモノに合わせた開発をしてきましたが、今は用途も言語の種類も一緒にした、一般的なものを開発する流れだからです」

 インタビュー後の3月21日、楽天グループは日本語に最適化したLLMの基盤モデル「Rakuten AI 7B」と、同モデルを基にしたインストラクションチューニング済モデル「Rakuten AI 7B Instruct」、インストラクションチューニング済モデルを基にファインチューニングをしたチャットモデル「Rakuten AI 7B Chat」をオープンなモデルとして公開した。

 ただ基本的には、汎用性を高めることに注力しているようだ。楽天は、Rakuten AI for Businessで関係者全員がAIを活用する世界として「AI-nization」を掲げている。この意味合いを聞くと「AIをベースとして仕事の仕方そのものを作り直すものです」と説明した。AIがビジネスの基本になることを強調する。

マーケ・運営・クライアントの事業効率を20%向上

 三木谷氏は23年、グループを挙げてAI活用に注力することを宣言した。AI活用によってマーケティング、運営、クライアントの事業効率を、それぞれ20%上げるよう社員に呼びかけているという。

 「例えば、楽天の保険業務でいえば、代理店がより業務を効率的にできるようにしました。AIはスタッフの生産性を上げるようなサポートをしてくれるのです」

 Rakuten AI for Businessには、データ分析やチャート作成など分析の手助けをする「Rakuten AI Analyst」、企業の担当者が効率的に、より高度な消費者へのサービスを提供できるように手助けする「Rakuten AI Agent」、企業の資料を分析し、必要な情報を提供することで顧客からの質問に迅速に回答できる「Rakuten AI Librarian」という3つの機能がある。

 「出店店舗へ消費者のレビューが上がってきますが、ポイントとなる部分をAIが判断してから店舗にサマリーとして提供する機能も、提供できるようになります。消費者に返答をするときのドラフト作成も、AIがサポートしてくれます」

 三木谷氏は「われわれだけでなく、ホテルなどの施設、加盟店、クライアント企業、パートナーといった全員が、AIを活用する世界を描いていきたい」と語っている。具体的にはどのようなビジョンなのだろうか。

 「楽天の全従業員にRakuten AIを提供するのが第1段階です。自分たちがAIを使うことによって、良い点や悪い点が分かります。そこからさらにテストをして改善した後、加盟店やクライアントにサービスとして提供できればと思っています。例えば、楽天トラベルを利用するホテルなどの宿泊施設が、AIを使うことで、より創造的な宿泊プラン名や説明文などを作れるようになります」

「能力を最大限に引き出したい」

 以上がインタビュー内容だ。ティンCDOは、データとAI領域のトップとして楽天グループに入社した。その原動力は「人が持っている能力を最大限に引き出したい」という思いだという。

 「長年、この業界に身を置いていますが、最終的に記憶に残るのは『事業』以上に『人』でした。楽天には才能あふれる人材が多く、彼らがワクワクしながら働けるビジョンを提示できるでしょう」

 確かに経営層の大きな役割は、ビジョンを示し、社員を同じ方向に向かせることだ。だが大企業になればなるほど、それを実現するのは容易ではない。

 「楽天のビジョンを明確に伝えることが重要ですが、その背景を理解してもらう必要があります。なぜそれをやるのか。理由の説明も必要です」

 GAFAのような巨大資本に負けないために、AIの活用がどれだけ大切かを、ティンCDOは理解している。「データがなければAIは機能しません」とも話し、AIを正しく機能させるにはデータが重要で、そのデータの質で他社に差をつけていることを強調した。通信事業を含むサービスを最大限に活用して、より大きな楽天経済圏を形成させようとしている。

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