令和になっても「パワハラが引き起こす悲しい事件」が減らない、4つの理由:働き方の「今」を知る(3/4 ページ)
パワハラが引き起こす悲しい事件がたびたび報道される。実際、厚生労働省の発表によるとパワハラ相談件数は年々増加している。組織を取り巻く課題を4つに分けて考察する。
(2)加害者に、自身の言動や行為がパワハラである旨の自覚がない
組織ぐるみでパワハラをなくそう、予防しようとどれだけ力を入れたところで、そもそも加害者側に「自分はパワハラをしている」という認識も自覚もないのであれば、パワハラを止めようがない。実際のところ、加害者は「相手に嫌がらせしたい」「憎らしい」といった明確な目的意識や悪意をもってやっているケースはさほど多くなく、逆に「無意識のうちに」「悪意なく」ハラスメントが行われているケースのほうが多いのだ。
特に部下を持つ管理職層が加害者の場合「これまで受けてきた指導自体がパワハラ同然であったため、自身の普段の言動・行動がハラスメントであることに気が付かない」「相手の成長のため、良かれと思ってやっている」というケースがあり得るだろう。ハラスメント気質のままで出世してきているということは、「そのやり方でこれまで成果を上げてきた人物なので、加害者の上司や周囲も指摘できない」といったことも考えられる。
この(1)無知と(2)無自覚が合わさると、パワハラの「軽視」につながる。特にパワハラ的な指導に慣れ、「自分は打たれ強い」との自覚を持った人であればあるほど、打たれ弱い部下の気持ちを理解できず「社会人ならこれくらいのプレッシャーや叱責に耐えるのは当然」といった信念を持ちがちだ。
また、どれだけ被害者が傷つき、不快な気持ちを抱いているとしても「冗談のつもりだった」「そんなに嫌がられていたとは知らなかった」などと言い訳するのもこの種の人物の特徴である。
つまり、「パワハラをやめよう」といった標語で、個々人の思いやりや道徳心に頼ってなんとかなる話ではないのだ。「パワハラ=自覚できない無意識の犯罪」といった位置づけで、組織ぐるみで対策をとっていく必要がある。
(3)被害者が声を上げづらい
パワハラは「指導」という名目で行われることが多い。必然的に、被害に遭うのは成果が上げられていなかったり、仕事でミスが多かったりするような、組織内では相対的に立場が弱く、発言力も小さい人物だ。
そんな被害者が「それはパワハラです」などと声を上げようものなら「仕事もできないくせに文句だけは一人前だな!」「権利を主張するならまず成果を出してからだ!」などと、さらに酷いパワハラに遭ってしまうリスクがある。
さらには「反抗的な問題社員」扱いされ、その後の評価が下がったり、不本意な人事異動に遭ってしまったりして、組織に居づらくなってしまうかもしれない。当然ながら、そのような展開が想像できる以上、ハラスメント被害を訴え出ることをためらってしまうことになる。
また実際に起きた話として、パワハラ被害者が内部相談窓口に被害申告したところ、「くれぐれも内密に……」と告発したはずのパワハラ内容がすべて加害者である上司に筒抜けになってしまい、さらなる被害に遭ってしまったというケースもある。社内に労働組合もない場合、そもそもどこに相談したらよいか分からない、という方も多いだろう。
(4)パワハラに対する直接的な罰則が緩く、抑止力になっていない
パワハラ防止法において、パワハラへの適切な措置を講じていない事業主は是正指導の対象となり、是正勧告を受けても改善しない場合は社名公表の対象となる。また行政(厚生労働大臣)は、事業主に対してパワハラ防止措置とその実施状況について報告を求めることができ、それに対して「報告をしない」もしくは「虚偽報告をした」場合は「20万円以下の過料」が科されることになっている。
しかし労働基準法違反のように、懲役や罰金といった明確な罰則規定は設けられていない。そのため「是正勧告程度で済むなら……」と軽く捉えられ、パワハラへの抑止力となっていない可能性がある。
この法規および罰則の問題と、被害者が訴え出づらいことが相まって、なかなかパワハラの実態が表に出てこないことにもつながっているようだ。
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