2015年7月27日以前の記事
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日本人はなぜこれほどまでに「学ばない」のか 背景にある7つのバイアス(2/2 ページ)

学びの習慣があまりにも低い日本の就業者の心理をより詳細に分析すると、学びから遠ざかる「ラーニング・バイアス(偏った意識)」が7つ明らかになった。日本人はなぜこれほどまでに「学ばない」のか。

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ラーニング・バイアスはなぜ生まれるのか

 7つのラーニング・バイアスをそれぞれ紹介した。多かれ少なかれ、こうした「学び」のイメージの偏りが、ビジネスパーソンを学びから遠ざけている。それでは次に、バイアスを高めていそうな組織の特性を見てみたい。

 多くのバイアスとプラスの関係にあったのは、まず、「長時間労働習慣」「異動の多さ」「職務の曖昧さ」という特徴だ。この3つの特徴は全て伝統的に日本の雇用の在り方に貼りついている特徴でもある。「空白の石版」と呼ばれる日本の職務の無限定性によって、異動は企業主導で容易に行われ、役割外の業務を含めて長時間労働の習慣も根強い。

 さらに別の要因としては、より会社特有のものとして、考えるよりもとにかく行動を優先するような行動主義的な風土や、業績を必ず達成しなければいけないという厳しい成果への圧力があった。これらは現状の業務の達成と、そのための最短距離の行動だけを求められるということであろう。これらもまた学びへのバイアスを高め、学びから遠ざける遠因となっている。


図3:ラーニング・バイアスを高めている組織の特性(出所:パーソル総合研究所「学び合う組織に関する定量調査」)

ラーニング・バイアス解除のために

 組織的に学びを促進するためには、こうしたラーニング・バイアスを解除する必要がある。そのための一手としては、やはり顕在的・潜在的に維持されてしまっている自分のバイアスへの気付きを与えることであろう。

 同調査からは、学びについての自己認識(セルフア・ウェアネス)が高いことは、やはり学び行動ともプラスの相関が見られている。実際、筆者も社員向けのリスキリング研修のような形で、このようなバイアス含めた自己理解へのサポートを実施している。


日本人はなぜこれほどまでに「学ばない」のか 背景にある7つの思い込み(写真はイメージ、提供:)

 研修以外にも、ワークショップや組織別・個別アセスメントなどを通じ、自らの「学び」の意識や苦手分野、伸ばしたいスキルなどへの理解を促進することができれば、歪んでしまっている「学び」への意識を是正できるだろう。無意識のバイアスに捕らわれている従業員は、なかなか自ら気付き、意識を正すことは難しい。組織からの介入が欠かせない領域である。

まとめ

 本コラムでは、パーソル総合研究所「学び合う組織に関する定量調査」で明らかになった日本のビジネスパーソンの7つのラーニング・バイアスを紹介した。

「新人」バイアス
学びは新人や若い人だけがやるものである

「学校」バイアス
学びは学校で生徒が行うものである

「自信の欠如」バイアス
学びはもともと得意ではない、自信が無い

「地頭」バイアス
生まれつき知能は決まっていて不変である(固定的知能観)

「現場」バイアス
経験だけが重要であり、学びは必要ない

「タイパ」バイアス
手っ取り早く、正解だけを学びたい

「現状維持」バイアス
今のままで十分仕事ができている

 また、そうしたバイアスの背景として「長時間労働習慣」「異動の多さ」「職務の曖昧さ」などの日本の雇用全体の特色や、「とにかく行動主義」「業績必達主義」などの企業や職場ごとの個別の組織風土があることも示唆された。

 リスキリング・ブームに沸く日本だが、このようなバイアスを放置すれば、中長期的に学ぶ組織には近づかない。これからの企業の人材開発機能の役割は、従業員の「学び」の意識や身につけたいスキルなど、バイアスを含めた学びについての自己理解を促進し、「学ぶ個人」をバラバラにつくることではなく、学び合い続ける組織をいかにつくれるかにこそある。

小林祐児

上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。

NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年よりパーソル総合研究所。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。

専門分野は人的資源管理論・理論社会学。

著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)、『残業学』(光文社)『転職学』(KADOKAWA)など多数。

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