なぜ日本の組織は「学び合わない」のか リスキリングを成功させる「コミュニティ・ラーニング」とは?(2/3 ページ)
今、社員のリスキリングについて取り組む企業の中で、学び合い続ける組織をいかにつくれるかが重要課題として改めて議論されている。それぞれのキャリアに合わせて選択的・自律的な学習をいかに促進しても、多くの企業で「笛吹けども踊らず」状態が続いている。いくら研修プログラムの改定を続けても、学び続ける組織を開発できなくては、いつまでたっても一部の従業員のための施策にしかならない。
なぜ「学び合わない組織」に?
すでに紹介してきたものも含め、調査からのファインディングをまとめれば、日本企業の多くで「学び合わない組織」が定着しているゆえんは、そもそもの研修訓練の欠落、学習への自主性の欠落、学習の共有の欠落、上司による率先垂範の欠落、他者との協働的な学び「コミュニティ・ラーニング」の欠落、学習相談の欠落、学び方・スキル・キャリアの自己認識の欠落だ。こうしたさまざまな機能不全によって、日本中で「学ばない組織」が当たり前のものになり、維持されてしまっている。
他者と学びあう「コミュニティ・ラーニング」の可能性
そうした状況を打破するために調査で示されているのは、集合的・共同的な学びの経験「コミュニティ・ラーニング」である。グループワークや事例共有会、課題解決型のプログラムやキャリアイベントなど、多様な「他者」と行う学びこそが、学ばない状況に対して変革の可能性を有している。エビデンスをいくつか紹介しよう。
まず、さきほど挙げたようなコミュニティ・ラーニングを一つでも経験している従業員は、本人の学習意欲が低い場合でも高い場合でも、月の学習時間が2倍以上になっている。1人ではなく人と学ぶことによって学ぶ時間をより多く捻出していることが分かる。
そのメカニズムをさらにひもとけば、他者との協働的な学びであるコミュニティ・ラーニングの経験は、学習スタイルなどについて認識する「学び方の自己認識」、自身のキャリアやキャリアパスなどについて認識する「キャリアの自己認識」、興味・関心やスキルなどを自己理解・評価する「スキルの自己認識」などの「学びの自己認識」の高まりにつながっていることが分かった。さらに、学びについて他者と相談する経験も同様に、自己認識を促進していた。
つまり、ビジネスパーソンは、学びについての「他者との触れ合い」を経由して、自らの学びに関する「学び方」「キャリア」「スキル」の自己理解を進めているということだ。他者との学びや学びの相談経験は、リーダーシップ経験や組織俯瞰経験、新規提案経験と比較しても、学びの自己認識に対して最も強くプラスの影響が見られている。
筆者は、これまでも著作『リスキリングは経営課題』(光文社)やその他メディア・講演などを通じて、「他者」を通じて学ぶことの重要性を示してきたが、こうした結果は、他者との触れ合いが学びにもたらすメカニズムをより詳細なレベルで示唆するものである。他者を巻き込む学びの重要性は、強調されてもされすぎることがない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
2カ月は「働かずに勉強に専念」 KDDI流・本気のDX人材育成法
窓際でゲームざんまい……働かない高給取り「ウィンドウズ2000」が存在するワケ
「ウィンドウズ2000」「働かない管理職」に注目が集まっている。本記事では、働かない管理職の実態と会社に与えるリスクについて解説する。
何を学べばいいか分からない 社員3万人に「気付かせる」日立の大規模リスキリング
リスキリングの注目が高まる中、いったい何を学ぶべきなのか、分からない社員も少なくないはず。ジョブ型を導入する日立は、社員3万人を対象に、大規模なリスキリングに取り組んでいる。社員に「気付かせる」仕組みとは?
「管理職になりたくない」 優秀な社員が昇進を拒むワケ
昨今は「出世しなくてもよい」と考えるビジネスパーソンが増えている。若年層に管理職を打診しても断られるケースが見受けられ、企業によっては後任者を据えるのに苦労することも。なぜ、優秀な社員は昇進を拒むのか……。
「管理職辞退」は悪いこと? 断る際に重要な2つのポイント
昨今「管理職になりたくない」「管理職にならない方がお得だ」――という意見が多く挙がっている。管理職にならず、現状のポジションを維持したいと考えているビジネスパーソンが増えているが、管理職登用を「辞退」するのは悪いことなのだろうか……?
「上司からの指示・命令のない組織」はうまくいく? GMOグローバルサイン・HDの挑戦
上司が部下に指示・命令し、部下は指示に従って業務を遂行する――このような、職場で当たり前に目にする光景を打破しようとする企業がある。GMOグローバルサイン・ホールディングスは4月から、「ホラクラシー型組織」を本格導入。「上司からの指示・命令のない」組織は、本当にうまくいくのだろうか……?
「ホワイトすぎて」退職って本当? 変化する若者の仕事観
「ホワイト離職」現象が、メディアで取り沙汰されている。いやいや、「ホワイトすぎて」退職って本当? 変化する若者の仕事観を考える。
時短勤務や週休3日が「働く母」を苦しめるワケ 働き方改革の隠れた代償
男性育休の促進、時短勤務やテレワーク、フレックスタイム制といった従来の制度をより使いやすくする動きが進んでいる。子育てをしながら働き続けるためのオプションが増えるのは良いことだ。しかし一方で、「これだけの制度があるんだもの、仕事も子育ても頑張れるでしょ?」という圧力に、ますますしんどくなる女性が増えてしまう可能性も。
指示ナシ組織で中間管理職を救え! 「忙しすぎ問題」の背景に2つの元凶



