私たちはもてあそばれている? 「本の帯」がもたらす“あざとい”3つの効果とは:令和の無駄学(2/2 ページ)
本の帯って実は海外ではみられない日本特有の文化だということをご存じでしょうか? 一説によると、本の帯が最初に付けられたのは大正3年だそう。今回は、読書が好きな生活者や消費行動の専門家へのインタビューも交えながら、本の帯がもたらす効果について、その実態をひもといていきます。
本の帯がもたらす“あざとい”3つの効果
生活者や専門家のコメントから、一見「無駄」とも思える本の帯が、実は強力な「ついつい買い誘発装置」としての効果があるということが分かりました。
買うつもりじゃなかったのについつい手に取ってしまう……購入のきっかけづくりに成功している背景には、3つのポイントがあります。
(1)その先がどうしても気になって……
ずばり、チラ見せ効果です。心理学ではツァイガルニク効果(※2)とも呼ばれますが、人はどうしても続きが気になってしまう生き物です。読者の皆さんも、印象的な冒頭のみが抜粋されたり、内容が途中で切られたりすると、無意識にその先を想像してしまい、知らずにはいられないという気持ちになりませんか?
※2:結果よりもその過程で起きたことの方が気になってしまうこと。完了した事象よりも未完了の事象のほうが記憶に残りやすいとされている
例えばよく見かけるものとして「〜〜(略)そのとき、主人公が下した決断とは……」や「この家族には、ある秘密が隠されていた……」などは、作品の内容をほんの少しチラ見せすることでその核心に興味を持たせるワードです。
さらに、個人的には「ラスト〇ページで全てが覆る」や「誰もがだまされる衝撃の展開」などのワードが加わると、もう作品の内容が気になって仕方なくなってしまいます。
こういった文言を本の帯に記載するときの表現について、八木橋准教授は「フォントや色味も作品に勧誘する大事な要素。そこにこだわることも、購入したいと思えるほどひき込むには重要なポイント」とコメントしています。
このように、つい作品が気になるよう良いあんばいで、その内容をちらっとのぞかせてくれる帯は、売り場で本を手にとる強い動機をつくっていると考えられるのではないでしょうか?
(2)みんなが好きなもの、試したい
本の帯に載りがちな文言といえば「〇〇賞受賞」「大人気」「おすすめ」などが挙げられます。これらを見れば、SNSを開かずとも、多数の支持や高い評価を得ていることが分かりますよね。
多くの人から評価されているものは試したい、社会の話題についていきたい。そういった動機で本を買う場合も少なくないでしょう。こういった文言は、日本人のキャラクターに対し効果的に働いているのだと考えられます。
八木橋准教授いわく「本の内容をじっくり楽しむというより、ランキングや賞など客観的に評価されているものをとりあえず読んだ、という経験を重視している生活者には、特に本の帯からの情報が購入につながりやすい」とのことです。
ちなみに海外では、人気商品という文言はあまり魅力的に響くワードではないようです。むしろ、他の人とは違うものを選びたいという考え方も多いのだとか。
(3)立ち読みはやっぱり後ろめたい
これ、みなさんもどこか思う節がありませんか? 売場で購入前の本をじっくり読むのはなんだか気が引けてしまう……。そんな感覚を持つ日本人は多いのかもしれません。そこで、内容に興味を持つために必要な最小限の情報を、瞬間的に訴えかけてくれるのが本の帯です。
こういった側面からも、本の帯は日本人にとってありがたいツールとして機能しているのではないでしょうか?
以上のように、私たちがいかに本の帯にうまく心を動かされているかがお分かりいただけたかと思います。
もちろん、これらはそもそも本が中身勝負の商材であることや、衝動買いしても費用や荷物の負担が比較的小さいことなど、前提があるうえで成り立つことです。それにしても、本の帯は、実に“あざとい”存在だと思いませんか?
本の帯に似た効果を発揮しているツール
最後に、本の帯に似た効果を発揮しているツールについて考えてみました。
1つは、コスメやアパレルの「雑誌に掲載された商品です!」というPOPです。
これも本の帯同様、付いている商品はつい気になってしまう方が多いのではないでしょうか? 何も買わないかもしれないのに、どの商品が人気かをわざわざ店員さんに話しかけるのもなんだか気が進まない……そんな私たちにやさしい事例でしょう。
もう1つは、SNS投稿のサムネイルです。タイトルや投稿者はもちろん重要ですが、サムネイルに入っているテキストによって、ついつい見たくなってしまうことはありませんか? 多くの似たようなコンテンツが並ぶ中、中身が気になってしまうようなキャッチ―な情報がぱっと目に入ってくるものを、やはり選びたくなってしまいますよね。
少し余談ですが、初対面の相手には自分の全てをさらけ出すより、一部を少し見せるくらいにとどめておくほうが、強く興味を持ってもらえるという説もあるようです。多くを語らず、それでいてインパクトに残る断片を見せ、深い中身へとひきこむ……。本の帯に、魅力的な振る舞いを教わる日が来るとは。
それでは今回はこのあたりで失礼いたします。次回のコラムもお楽しみに!
著者紹介:中久保朱律
2023年に、北海道博報堂のクリエイティブ・プロモーション部に新卒入社。
現在、2年目クリエイター/プランナーとして修業中。企業やイベントポスターのデザインとコピー、商品パッケージのデザイン、商業施設のクリエイティブとプロモーションの統合プラニングなどに携わっている。
ヒット習慣メーカーズ地域メンバー。
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