衰退途上国ニッポンの、それでも増えない女性管理職 「数」を軽視した先に待つのは?:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
女性管理職を始めとする女性リーダーが増えない状況が続いています。「なりたがる女性がいない」というのは本当なのでしょうか? 「女性は会議が長い」発言など、女性差別的発言が取りざたされた東京五輪から3年。日本が女性活躍に失敗し続けているワケを探ります。
「なりたがる女性がいない」ってホント?
パリの開会式には賛否両論ありましたが、あれが世界です。フランスが自国の歴史と向き合った結果として「自由」や「平等」を重んじるメッセージがありました。かたや日本の「自由」とは? 「平等」とは? 何なのか。
そもそも男女の数は半々なのに、日本の形を決める政治の場にも、日本経済をつかさどる企業の経営層にも、女性が圧倒的に少ないのは、いったいなぜ?
「なりたがる女性がいない」という声が多く聞かれますが、だったら「なりたがる女性を増やす」には何をすればいいのか、真正面から議論しているでしょうか。
「女性とか男性とか関係なく、資質がある人がなればいい」との意見がありますが、政治家の資質とは、経営者の資質とは何なのでしょうか。
フランスだって、最初から平等だったわけではありません。同じ「人」として、全ての「人」が平等で自由であるべき。そんな国にしたい、変わろう、変わりたいと進んできました。
2011年、フランスでは男女の割合を基準とする性別クオータ制に関する法律が制定されました。取締役会クオータ法では、企業などの取締役会と監査役会に対し、男女の割合をそれぞれ40%以上にするという義務が課されています。2012年には、17年ぶりの社会党大統領に就任したオランド氏が「男女同数内閣」と、「女性の権利省(Ministre des droits des femmes)の新設」を公約とし、実行しました。
女性の政治家が増えることの最大の利点は、等身大の、市民の肌感覚に合った政治になることです。クオータ制や同数制などで、女性議員を増やした欧州や、米国の州などで、その効果が検証され、特に女性、子ども、家族関連の法案が成立しやすくなったと報告されています。
もともと政治参加の低かった女性たちを、強制的にでも候補者として擁立すると、医師、教師、ボランティア、銀行員、主婦などが政治家となる。2世議員などの政治家一族や、経営者などエリート層とは全く異なる視点が、政策に生かされるようになる。すると、もともと政治的関心の低い女性有権者たちの関心も高まり、「古い政治(old politics)」に風穴が開けられるのです。
女性の多い職場は「ザワザワしている」
これは企業などでも全く同じです。女性の「数」が増えれば、多様な価値観の共有が促され、組織の活性化につながっていきます。
意思決定の場に女性が増えれば「仕方ない」とか「変わりっこない」と閉ざされていた「口」が開くのです。
実際、女性管理職の多い企業、女性の政治家が多い地方自治体に行くと、ザワザワしています。悪い意味ではなく、良い意味で、活気があります。自由に意見を言う空気があり、笑いが多い。男性だけの組織では一目で誰が上司か分かりますが、それが分からない。上司と部下の距離感が近く、無駄な緊張感が存在しません。
この「意見が言える」ことが組織の最大のリソースになり得るわけです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
10%に満たない女性管理職 なぜ「上」に行けないのか
女性軽視発言やセクハラについては、多くの人たちが問題にするようになった。しかし「女性リーダーの数を増やす」ことには否定的な意見も多く、結果として女性管理職は8.9%、女性の衆議院議員は9.9%と非常に低い。なぜ女性は「上」に行けないのか。
組織にはびこる“森喜朗”的価値観 女性は「よそ者」であり続けるのか
「女性がいる会議が長い」という発言は森喜朗氏に限らず、日本企業で度々耳にする。忖度で動く「タテ社会」の組織にとって、自由に発言する女性は“よそ者”。多数派が権力を行使するために排除する。この構造を変えるためには「数の力」が必要不可欠だ。
「内輪だからいい」では済まない侮辱発言、ハラスメントが続く組織は“コミュニケーション能力が低い”
女性タレントの容姿を侮辱する演出を提案したとして、東京五輪の開閉会式演出の総合統括クリエイティブディレクターが辞任した。「内輪のことだから」と擁護する声もあるが、ハラスメントのほとんどは「内輪」で起きた出来事だ。こうしたハラスメントや差別発言は、無意識の思い込みと、コミュニケーション能力の低さから起こっている。
50年以上「女性は都合のいい労働力」とされている、本当のワケ
正社員の平均賃金が男女で約200万円も異なるなど、賃金格差が縮まらない。女性の就業率は上がっているものの、非正規雇用者ばかりが増えている。こうした事象の背景には、「都合のいい労働力」を求める日本の構造がある。どういうことかというと……。
「君はロールモデルになれない」 女性活躍のウラで見捨てられる、45歳以上の女性たち
企業での女性活躍が進められる裏で、男社会で戦ってきた中高年の女性社員の存在がなかったことにされている。中高年の女性たちは「永遠にベンチを温めるだけの存在」で「用済み」なのか?
