「相談しない部下」が増加、何におびえているのか? 上司ができる、ただ一つのこと:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
上司は「部下と精神的な距離を感じる」と悩み、部下は「相談しづらい」と悩む──昔に比べて働きやすい職場環境になったのに、なぜ上司と部下のコミュニケーションは改善されないのか? その根本には、部下が感じている「ある不安」があって……。
若手世代が感じている「評価不安」の正体
Z世代はうら若い頃からタブレットをシュシュっと操り、SNSを活用したコミュニケーションを日常的に行い、指一本で海を越え、多種多様な国籍の人たちと交わり、環境問題や人権問題を教育され、社会問題にも積極的に関わってきました。
実際には個人差があるものの、「私」たちはイメージでカテゴライズするのが大好物。SDGs(持続可能な開発目標)やウェルビーイングといった言葉が日常的になったことで、ますます“Z世代オリエンテッド”は高まり、「若者の未来をつぶすな!」と若者を重んじる圧もあいまって、上司は「相手との精神的な距離を感じる」(冒頭の調査結果)ようになり、それを言い訳に、コミュニケーションを避ける上司も増え、ますます「上司部下コミュニケーションの壁」は高まりました。
一方の若者も、上の世代とのコミュニケーションに葛藤を抱えています。
冒頭の調査で「指示・指導が分かりづらい」「相談や質問をしづらい」との回答が上位を占めていましたが、若者とのコミュケーションを難しくさせているのが、彼ら彼女らが抱える「評価不安」です。
高校受験や大学受験とか、高い点数さえ取ればいいテストは楽だった。でも、就職試験って自己採点できる問題が準備されているわけじゃないから訳が分からない。
仲が良かった友達に内定が出ると「なぜ、あいつは内定をもらえて僕はダメなんだ」って、ドツボにはまる。
自己分析は徹底的にやらされてるけど、内定がなかなか出ないとそのやり方が間違っている可能性が高いからやり直す。それでなんとなく落ちた理由らしきものが分かるのだけど、また落とされる。結局、何が問題なのかも分からないから、面接がどんどん怖くなる。
これらは都内私立大学で非常勤講師をしていた時に、学生たちが話してくれたことです。
周りの仲間が内定切符をゲットするのを横目に、彼ら彼女らを最も傷つけるのは、「自分がどうしてダメだったか分からない。それでも内定をゲットしなければ先がない」という理不尽さです。
最近は以前に比べると内定が取りやすくなったとされていますが、20代の会社員の声に耳を傾ければ傾けるほど、彼ら彼女らが抱える「評価不安」は逆に高まっているように感じます。
わずか20歳で「自分はちゃんと評価されない限り、社会人になれない」という不安が、今を生きる若者の感情の根底に蓄積される社会システムが確実に存在するのです。その「ちゃんと」というのが何かも分からないまま、本来であれば自由を謳歌し、自分の可能性が広がる時期を、大人が作り上げたシステムの中で生かされているのが、令和の若者です。
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