「相談しない部下」が増加、何におびえているのか? 上司ができる、ただ一つのこと:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)
上司は「部下と精神的な距離を感じる」と悩み、部下は「相談しづらい」と悩む──昔に比べて働きやすい職場環境になったのに、なぜ上司と部下のコミュニケーションは改善されないのか? その根本には、部下が感じている「ある不安」があって……。
評価不安が生む悪循環 「ダメなやつと評価されたくない……」
冒頭の調査で、上司とのコミュニケーションの課題に「指示・指導が分かりづらい」「相談や質問をしづらい」「相手との精神的な距離を感じる」という回答が挙げられていましたが、評価不安を抱える若者は「分からないこと」があっても、「分からない」と聞きません。
「そんなことしたらダメなやつだと思われる」「こんなことも知らないの、とか言われそう」「聞いたら終わり。使えないやつってレッテル貼られてしまう」など、彼らの脳は「聞く=ダメなやつと評価される」という公式で埋め尽くされています。
他者評価を過剰に気にする現代の若者だけに、“聞けない症候群”に陥ってしまうのでしょう。
要するに、上司部下コミュニケーションは、コミュニケーションの問題であって、コミュニケーションだけの問題ではない。若者の「評価不安」を消さない限り、問題解決にはつながりません。
では、上司はどうすればいいのでしょうか?
上司にできる、ただ一つのこと
上司のすべきことは、信頼と共感を示すこと。これに尽きます。
信頼とは「部下の可能性を心の底から信じる」こと。「その場をうまくやる=ハラスメントにならないやりとりに注力する」よりも、ただただ「あなたをちゃんと見てるよ、ちゃんと分かってるよ」という気持ちを声に出してほしいのです。
評価不安は「自分の可能性を信じるスイッチ」をオンにすることでしか、解消されません。
そのスイッチをオンにするきかっけを、上司には作ってほしいのです。
「可能性にかける=才能が開花する」とは限らないかもしれません。上司の努力が無駄になるリスクは多分にあります。それでも、自分が「可能性」を信じない限り可能性のスイッチはオンにならない。「そのスイッチがあなたにはあるんだよ!」というメッセージを上司は部下にどうか送り続けてほしいのです。
「おお、がんばってるな!」「君なら大丈夫だ!」「最後は私が責任を取るから、ドンとやってみなさい!」と言い続けてほしいのです。
極論を言えば、そう言い続ける=部下の可能性にかけることくらいしか、上司にできることはありません。私はこれまで1000人以上のビジネスパーソンにインタビューしてきましたが、そこで痛感したのが「人に内在する不思議な力」です。
人は信頼されるから相手を信頼し、期待されるから期待に応えようとする。そういった心の動きがあってこそ人は成長し、そのきっかけを与えてくれた「他者=上司」といい関係を作ろうと努力します。
上司は「コミュニケーション」のせいにする前に、まずは部下の可能性を信じ、部下の可能性にかけてください。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)がある。
2024年1月11日、新刊『働かないニッポン』発売。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「社員の学ぶ意欲が低い」「リスキリングが進まない」と悩む経営者の大きな勘違い
「社員の学ぶ意欲が低い」「リスキリングが進まない」と悩む経営者や人事担当者が多いが、果たして本当に社員の問題なのだろうか? こうした“嘆き”が生まれる背景にある経営者の勘違い、そして取るべき対応とは──。
米Amazon、Googleも出社回帰 なぜ、わざわざ脱リモートするのか?
米Amazonがリモート勤務を原則廃止し、週5日出社に戻すと報道された。なぜ、リモートワークもできる世界的なIT企業がリアル出社に回帰しているのか。チームの生産性を向上させるには、どうしたらいいのだろうか。
「自分で考え、動ける社員」を作る──リコーは何をしているのか
「リコーは2020年にOAメーカーからデジタルサービスの会社になると宣言している」――リコーの長久良子CHROは、自社の人的資本戦略に変革が必要になった理由をこのように話す。リコーが2020年から進めてきた、自律的に考えて提案できる社員を育む人的資本戦略と、見えてきた課題感とはどのようなものか。
「育休はなくす、その代わり……」 子なし社員への「不公平対策」が生んだ、予想外の結果
出生率が過去最低となり、東京都ではついに「1」を下回ったことが大きく話題になっています。結婚や出産を希望する人が、安心してその未来を選べるようにするために、企業ができることは何か。「育児休暇をあえてなくした企業」の事例をもとに、社員を疲弊させない経営戦略について考えます。
「転職は裏切り」と考えるザンネンな企業が、知るべき真実
「お前はどこに行っても通用しない」「転職は裏切りだ」──会社を去ろうとする若手社員に、そんな言葉を投げかける企業がいまだに存在する。そうした時代遅れな企業が知らない「新入社員の3割が辞めてしまう理由」や、「成長企業できる企業の退職者との向き合い方」とは?
