「出世するなら必ず管理職」からの脱却は、何を生む? 三井住友銀行「年功序列の廃止」の真意【後編】(1/5 ページ)
三井住友銀行が2026年1月をめどに、人事制度を抜本的に変更する方針を示した。その中でも「年功序列の廃止」が注目されている。新制度を受け止めることになる社員とのコミュニケーションはどのように計画しているのか。また、制度が変わることによって社員のキャリアプランにどのような影響があるのか。その詳細に迫る。
三井住友銀行が2026年1月をめどに、人事制度を抜本的に変更する方針を示しました。その中でも最も注目されているのが「年功序列の廃止」です。
この記事の前編では、業務領域の広がりに応じて見合わなくなった「階層」の制度を改廃する狙いについて詳しく紹介しました。後編にあたる本記事では、新制度を受け止めることになる社員とのコミュニケーション計画や、制度が変わることによって社員のキャリアプランにどのような影響があるのかについて深掘りします。前編に続き、人事部副部長の北山剛氏に河合薫がインタビューします(取材内容は2024年7月時点のものです)。
新制度、社員にとって「しんどい面」はないの?
河合: 新しい人事制度のプラス面はよく分かりました。働く人にとってしんどい面といいますか、デメリットを教えてください。
北山: これまでは「階層」がある意味、明確な一つのキャリアのパスとして目指すべき到達点を示していました。いわゆる処遇の金額が大きくついてきますし、「階層」が上がると基本下がることは滅多にありません。
これが新制度になると役割の世界に変わるので、高い役割を得て求められるアウトプットを出し続けている人は、より高い処遇を目指すチャレンジになる。一方で、そうじゃない人はスーッと下がっていく。階層がなくなることで、アップダウンがはっきりするので、そこをデメリットに感じる方は当然いらっしゃると思います。
河合: ある意味、今までが守られすぎだったので、偉くなってからもちょっと頑張ってもらわなくちゃですね。中には「給与が下がっていく」「もう、上がらない」という状況もやる気を失う人もいると思うのですが、会社側の対応はどうなるのでしょうか。肩たたきをするのか、もう一度チャンスを与えるような中間地点を設けるのか。
北山: これまではある領域でなかなか力を発揮できていない場合、異動など配置替えをしながら少し我慢して、適所適材を探してもらうようにしていました。数年経って、また本人が望むのであればフロントチャレンジに挑んでもらっています。
こうした異動は今後も続けますし、これからはまだ検討中ですが、リスキリングとしてどこかの特定の業務領域でワンクッションを経験して、次のキャリアに行ってもらうこともあります。
本人はこうしたいと思っていても、なかなか位置づけることが難しい場合は、人事がメンターします。あるいは店長やマネジメントから促されながら、自分でキャリアを変えていくケースも想定しています。いずれにしてもやはり大事なのは、本人のマインドセットですから、自分でキャリアを変える選択をしてもらいたいですね。
人事部の光と影 人事面談は年間で約7000時間
河合: 人事側が一番悩むのが、そこですよね。この数年は、どの企業でもやはりシニア社員の自主性を引き出すのに苦労しているように思います。手を尽くしてもなかなか手強い。
北山: はい、難しいです。
河合: ただ、シニア社員たちも本当はなんとかしたいと思っているのに、まわりからの厳しいまなざしや、期待されていない空気を察したり。ちっちゃなプライドが邪魔をしちゃうんですよね。本人も苦しんでるんだけど、それを会社に訴えるのもはばかられる。
北山: 「光」と「影」の仕事があるわけです。なかなか適応が難しい人と向き合ってやる気を引き出していくのは影の仕事の一つです。やはり人事が介在せざるを得ないケースがあるのですが、タイミングを見計らって、本人としっかりとコミュニケーションを取る。
タイミングはとても大切です。例えば、突然、異動が出て「なんで自分なんだ。しかも、こんなに急に」となってしまうとサポートが難しくなります。その手前のところで、いかにコミュニケーションをとるかが大事です。
拠点長にまずしっかりやってもらいながら、少しずつ措置を整えていく。異動時説明は人事もやりますし、大体年間で500から1000人ぐらいと面談はしています。時間にすると年間7000時間ぐらいは人事面談にあてています。新制度になるまでも、なってからもやり続けます。
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