社員の学びへの「投資対効果」が検証できない──村田製作所はどう解決?:ベネッセが共同で調査(2/3 ページ)
企業・従業員の双方にとって、学び(リスキリング)による新たなスキル獲得が急務となっている一方、中長期的な学びへの投資対効果(ROI)の検証や、個人学習と組織成果との関連を明らかにすることは非常に難しい。今、個人の学びや成長を組織の成果や発展に結び付ける仕組みづくりに注目が集まってきている。
学びへの「ROI」が検証できない──村田製作所はどう解決?
次に、佐藤氏から村田製作所との共同調査の結果について報告があった。セラミックコンデンサや高周波部品などの電子部品で世界トップクラスのシェアを持つ村田製作所は、2022年4月に、ベネッセが提供する法人向け動画学習プラットフォーム「Udemy Business」を導入した。
「村田製作所は社員の学びに力を入れているものの、中長期的な学びへの投資対効果(ROI)の検証が困難であることや、個人学習と組織成果との関連が明らかになっていない、という課題を感じていました。そこで、従業員の学びと組織成果の関連性を検証することを目的に、共同調査を行うこととなったのです」(佐藤氏)
調査は2024年11月、村田製作所におけるUdemy Business利用者2089人を対象に実施した。
この調査では、「組織学習」という新しい概念を導入した。組織学習とは、「組織を1つのまとまり(例えば1人の人格)と見立てたときに組織(人)が変化すること」と定義し、5つの構成要素(情報獲得、情報分配、情報解釈、情報統合、情報記憶)に基づいて分析されている。
調査結果から見えた3つのポイント
1. 「組織学習」が「組織成果」を促進する
調査の結果、「組織学習」の中でも「情報分配」「情報解釈」「情報記憶」が特に「組織成果」に大きく関連していることが分かった。
「知識を共有し、活用し、組織内に蓄積することで、業績向上や新しいビジネス創出につながる可能性が示唆されました。特に、『情報分配』として新しい知識を組織内で共有する過程、『情報解釈』として共有された情報をもとに実践やフィードバックを得る過程、『情報記憶』として理解された実践知を将来使用できるように蓄積する過程が、組織成果に影響を与えていることが確認できました」(佐藤氏)
2. 「心理的安全性」が学びの推進に寄与
「職場で『失敗しても大丈夫』と感じられる心理的安全性が確保されている場合、社員同士の学び合いが活発になり、組織全体の成長が促進されることが確認されました」(佐藤氏)
心理的安全性は、組織学習の全ての要素に影響を与えていた。これは、チームが安全に知識を共有し、議論し、実践する環境が整っていることの重要性を示していると言えるだろう。
3. 「ラーニングカルチャー(学びの文化)」が組織の未来を切り開く
「個人の学びを組織的な成果に結び付けるためには、学びを共有し、活用する文化(ラーニングカルチャー)の醸成が重要であることが分かりました」(佐藤氏)
学習推進の要素の中で、特に「期待」「サポート」「学習継続意向」が組織学習とポジティブに関連していた。一方で「学習習慣」と「学習目的の多様性」は組織学習とネガティブな関連が見られた。
「よく学ぶ人が多かったり、目的を多様に持っていたりする組織の方が、組織学習における情報分配や解釈、統合について、組織活用ができていない可能性があるのではないかと考えられます。これは、学べば学ぶほど、アウトプットの機会が足りなくなることが原因かもしれません。あるいは、目的が多様にあるがゆえに、チームとしてまとまりづらく、組織的な活用に至らないケースが増えているのかもしれません」(佐藤氏)
ラーニングカルチャー醸成に必要な3つの取り組み
佐藤氏は、調査結果をもとに「組織学習」を推進するラーニングカルチャー醸成のための具体的な取り組み例を提示した。
- 学んだスキルを職場で共有して議論する場の提供:社内プレゼンテーションの機会や報告会など
- ジョブローテーションやプロジェクトの参加機会の支援・促進:学んだスキルを実践する機会を増やす
- 学習者同士が交流して学びを実践する場やコミュニティの支援・促進:実践共同体の形成
「これらの取り組みにより、個人の学びが組織の知恵となり、組織全体の成果につながるラーニングカルチャーを醸成することができます」(佐藤氏)
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