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迷走するトランプ関税 自動車業界で得をするのは誰なのか:高根英幸 「クルマのミライ」(3/5 ページ)
米トランプ政権の関税政策が世界を振り回している。自動車業界への影響も大きいが、日本メーカーは過去の貿易摩擦問題によって、すでに海外における現地生産が進んでいる状況だ。目まぐるしく方針が変わる関税政策に対して、どのように交渉していくのか。
日本の自動車産業が直面してきた、米国との貿易摩擦
日本においてもそれは同様で、これまでの自動車関税交渉の歴史が思い起こされる。日本の自動車メーカーは、オイルショックや排ガス規制を乗り越えた1980年代から米国市場でシェアを伸ばし始め、その結果、貿易摩擦が生じた。
日本車が北米市場で人気を得ると、貿易摩擦により米国側からさまざまな要求が突き付けられ、その対策として現地生産を進めてきたという歴史がある。したがって、すでに日本の自動車産業は、米国内に生産拠点をいくつも持っている。
日本自動車工業会(自工会)によれば、2024年末時点で、会員企業は米国内での製造に累計660億ドル(約9兆円)超を投資してきた。現在は、27州で24の製造工場、43の研究開発施設、70の物流拠点を運営し、11万人以上の米国内直接雇用を生み出し、経済波及効果も含めれば220万人以上の雇用を支えているという。
トヨタの米国工場進出は比較的遅く、1980年代初めからフォード、GMと合弁会社での生産を探っていた。時間をかけてGMとの合弁会社ニュー・ユナイテッド・モーター・マニュファクチャリング(NUMMI)を1984年に設立、作業員の教育なども念入りに行って生産を始めた(写真:New United Motor Manufacturing, Inc.)
現地生産化は北米だけでなく、欧州でもASEANでも行われている。今や日本の自動車メーカーでも、多くは海外の方が生産比率が高いのである。
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