三菱UFJ銀行「社内ビジコン」が活況 「ただのアイデア大会になる」企業と何が違うのか(3/3 ページ)
「期待したほど応募が集まらない」「本気のアイデアが出てこない」「一度落選すると、翌年挑戦してくれない」――。新規事業創出の有効な手段として、「社内ビジネスコンテスト」を導入している企業は少なくないが、このような運営上の課題に直面するケースが多く見られるのが現状だ。今回は、そんな社内ビジコンを成功させている、三菱UFJ銀行の取り組みを紹介する。
アイデアと挑戦意欲を育む「学びと遊び」のデザイン
参加者を集めた後は、いかにして彼らのアイデアを磨き、再挑戦への熱意を高めるかが課題となってくる。Goodpatchの島田氏は、その鍵として「学びと遊び」「仲間づくり」「柔軟なアレンジ」の3つの設計ポイントを挙げた。
まず、「学びと遊び」について。そもそも、新規事業のアイデア創出になぜ「遊び」が必要なのか。島田氏は、新規事業が「世にないものを生み出す不確実な活動であり、膨大なエネルギーが必要」であると指摘した。だからこそ、参加者がエネルギーを注げる状態、いわば「ゾーン」のような状態を作ることが重要だと説く。
そのために意識した具体的な仕掛けが、以下の3つだ。
- ワクワクする仕掛けの徹底
- 興味・共感を深める仕組み
- ゲームのように段階的にアイデアを形にする
次のポイントが「仲間づくり」だ。挑戦者たちは、具体的なアイデア創出に取り掛かっていく。しかし、アイデア創出は孤独な作業になりがちだ。そこで島田氏は「仲間」の重要性を強調する。
「中には、一人で突き進める人もいます。しかし、自分の可能性に気付いていない人、日々の忙しさにかまけてしまっている人は、動き出すキッカケ・動機付けが大切です。その外発的動機を作る要素として、『仲間』が必要なのです」(島田氏)
そして、最後のポイントである「柔軟なアレンジ」。どんなに良いプログラムを設計しても、実際の運営では「宿題ができない」「欠席者が出る」「オンライン接続が不安定」といった予期せぬ事態は起こり得る。これらに柔軟に対応し、参加者全員がプログラムにスムーズに参加できるよう、「柔軟なアレンジ」が不可欠だ、と島田氏は指摘する。
具体的には、事前のリマインドや当日のキャッチアップフォロー、欠席者を想定した現場調整、オンライン環境の事前調整と個別フォロー体制、そしてサブファシリテーターによる丁寧な進行支援など、あらゆるケースを想定した準備と当日の機動的な対応が必要となる。つまり、事務局は、非常に複雑かつ繊細な対応が求められるのだ。
「新規事業創出プログラムの運営は容易ではありません。数年にわたるプロジェクトになることを見据え、事務局だけで頑張るのではなく、社内外の協力者を得てチームで取り組むことが大切です」(島田氏)
Relightプログラムは落選者の思いや課題を細かく分析した上で、丁寧な関係構築を経てワークショップを実施。その結果、「落選者が見る見るうちに自信を回復し、アイデア改善のポイントを自ら見いだしていく様子が目に見えて分かった」(MUFGの丸山氏)という。参加者同士のつながりも深まり、プログラム後も自発的な活動が生まれていることから、「多くの参加者の再挑戦の原動力になったのでは」と評価した。
「アイデア大会にしない」──MUFGが語る本当に大切にすべきこと
改めてMUFGの運営担当者から、ビジネスコンテストを運営する上で大切にしているポイントが語られた。杉山氏は、特に重視する点として3つを挙げた。
期待しすぎない
参加者は「儲かるビジネス」を目指すが、運営側は「カルチャー変革、風土醸成、人材育成」に主眼を置く。斬新なビジネスが生まれればそれに越したことはないが、風土醸成のためには継続開催が何より重要であり、マネジメント側の“割り切り”も必要だ。
アイデア大会にしない
提供価値に対する対価を払う「顧客」が不在のアイデアでは意味がない。Spark Xでは、「顧客課題の特定」と、それに対する「提供価値・解決策の検討・検証」を一貫して重視している。ビジョンから課題設定、提供価値、解決策へと順番に積み上げていくプロセスを大切にしている。
心理的安全性を確保する
経営からの積極的なメッセージ発信や人事評価へのひも付け、リソース提供といったトップダウンのコミットメント。応募ハードルの引き下げや社内SNSコミュニティー、積極的な広報といったボトムアップの施策。この双方からのアプローチで、誰もが挑戦・参加しやすい雰囲気づくりを追求する。
杉山氏は、これらの実践の中でも特に「風土醸成」には時間がかかり、継続的な取り組みが不可欠だと語った。
ビジネスコンテストは「挑戦の土壌」を育む
セミナー終盤、丸山氏は改めてビジネスコンテストの価値についてこう力説した。
「ビジネスコンテストなら、起業という大きな決断をせずとも、新規事業に思い切り挑戦できる環境と経験を社員に提供できます。そして、参加者を中心に、新しいことへの前向きなマインドが広がっていく。つまり、ビジネスコンテストは会社の風土を変えるきっかけになる可能性を秘めているのです」(丸山氏)
今後の展望として杉山氏は、「関与者人口の増加」を目指すと話した。2025年度からは、起案は難しくても自身の知見でサポートする「サポーター制度」の導入や、過去の応募者に「シード権」を付与するなど、より多くの社員が多様な形でプログラムに関われる施策を進めていくという。MUFGのビジネスコンテストは、次のステップへと着実に歩みを進めている。
今回のセミナーは、ビジネスコンテストを単なる「アイデア募集の場」として捉えるのではなく、社員のモチベーションと挑戦意欲を引き出し、組織全体のイノベーション文化を育むための「仕組み」として捉え直す重要性を示した。
「応募が集まらない」「アイデアが枯渇している」と感じている運営担当者は、一度立ち止まり、自社のプログラムが挑戦者たちの「もう一度やってみよう」という気持ちを育む土壌となっているか、見直してみてはいかがだろうか。MUFGの事例は、そのための具体的なヒントに満ちていた。
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