周囲になじめず「自己流で仕事するしかない」と悩む部下 上司に求められる対応は?
周囲になじめず「自己流で仕事するしかない」と悩む部下。上司や組織、本人に求められる対応は?
この記事は、『なぜあなたの組織では仕事が遅れてしまうのか?』(黒住嶺・伊達洋駆著、日本能率協会マネジメントセンター )に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
事例紹介
2年間他社で勤務した後に転職活動を経て、マーケティング部に入社した長谷川聡。マーケティング部は5年ぶりに社外からメンバーを迎えた。部内に長谷川の年齢に近い社員はいない。長谷川は周囲に遠慮し、なかなか話しかけることができないまま数カ月がたち、自己流の仕事の仕方に限界を感じていた。そのタイミングで声をかけたのが社歴5年の細田誠だった。
長谷川は5年ぶりにマーケティング部に入社した若手だった。2年間、関西にある他社で勤務し、その後、地元の関東近郊に戻ろうと転職。念願かなって、入社が決まり、マーケティング部への配属となった。
マーケティング部は会社のエース級の人たちが集い、とても華やかだ。みんなが忙しくバリバリと働いているので、新参者の長谷川が話しかけるには勇気が必要だった。
最も年が近い社員でも、社歴5年の細田になる。細田は大きなプロジェクトに抜てきされたばかりで、張り切って仕事を進めているのが入社したての長谷川にも見て取れた。「自分もあんなふうになれる時期が来るのだろうか」と、細田の活躍をぼんやりと眺めていた。
仕事は毎日毎日、次から次へとやってきた。先輩たちのプロジェクトのデータ整理が中心だ。自己流でExcel上の数値を処理していくことはできる。
しかし、「それが何の役に立っているのか」 「本当に生かされているのか」は長谷川にはよく分からなかった。
また、次第に自己流では対応できないタスクも頼まれるようになっていった。なんとなく、先輩たちは「彼なら教えなくても分かるだろう」と思っているような気がして、長谷川は誰にも質問できずにいた。
長谷川に託された自己流では対処ができないタスクは、どんどん後回しになり、気になりながらも着手できない塩漬け状態が続くようになっていった。
そんな長谷川の様子に気づいたのは細田だった。
そういえば、自分がOJTをしてもらった2年先輩の宮橋のような存在が、長谷川にはいないことに気付いたのだ。長谷川に目を配っていると、朝から晩までPC画面に張り付いて、周囲とはほとんど言葉を交わしていない。
「しまった……」と細田は思った。
細田は大きなプロジェクトに没頭して、長谷川の様子を気に掛けてこなかった。もしこの状態が続けば、長谷川も1年前の自分同様「会社を辞めたい」と言い出しかねない。
細田は何気ない様子で長谷川に話しかけた。
「長谷川くん、ちょっとコーヒー買いにいかん?」
急に話しかけられた長谷川は驚いていたが、すぐにうれしそうな表情を浮かべ、 「はいっ!」と返事した。
1階のコーヒースタンドに向かうエレベーターの中で、細田は長谷川に「仕事は慣れた?」「楽しめている?」などいくつか質問をした。しかし、長谷川はその全てに「そうですねぇ……」「たぶん、楽しいですかね」と歯切れの悪い受け答えをした。
細田は長谷川のキャラクターをつかみきれないまま、コーヒーを2つ注文した。
フロアに戻るエレベーターの中で、細田は「なんか困っていることはある?」と尋ねた。すると、長谷川はこれまでになくハッキリとうなずいた。
そして、振り絞るように「分からないことがあっても、誰に質問していいか分からないんです」と言った。長谷川の言葉を聞いて、細田は今日2度目の「しまったな……」と心の中で呟いた。
「今週末、プロジェクトの打ち上げがあるんだ。長谷川くんにも少しデータ整理をお願いしたやつ。 もしよかったら、 来ない? 部内で相談できる人を増やせる機会にもなるかな、と思うし」
長谷川は「いいんですか!」と今にも泣き出しそうな表情で言った。
「よりスムーズに仕事を進めるために必要なこと」を整備
周囲からのサポートがないままに自己流で仕事を進めていくと、いつか壁にぶつかり、難度の高いタスクは先延ばしにされ得るということが描かれていました。組織の中で、どのような環境を整えておくとよかったのでしょうか。
「ジョブ・クラフティング」(※)の中の「資源の希求」の考え方で対策を講じていくことができます。タスクを進めるために必要な知識や、誰にどのようなことを手伝ってもらうのかなど、「よりスムーズに仕事を進めるために必要なこと」を整備すれば、タスクに取り組みやすくなり、先延ばしの抑制につながります。
※ジョブ・クラフティング:仕事そのものを自分なりにアレンジし、仕事の捉え方を変えるアプローチ。「資源の希求」 「挑戦の希求」 「要求の低減」の3つの要素がある。
【組織でできること】
組織でできる対策としては、タスクを進めるのに必要な知見を得やすい環境を整えることや、完遂できるだけの時間を確保することです。つまり、それぞれが「資源」を希求しやすい職場をつくっていくのです。
例えば、自部署のメンバーを集めて、あるいは部署を超えたいろいろな人も集めて、勉強会や交流会の機会をつくります。すると、部署の内外で綿密な関係性ができ、相談しやすい環境が整っていきます。
もしかすると「他部署との交流は面倒だ」と感じる人もいるかもしれませんが、「少し助けてくれませんか」と言いやすくなる関係ができることは、自身にとって大きなメリットになります。こうした価値をきちんと伝えていくことができるとよいでしょう。
資料や知識を部門間で共有できるシステムを導入するなど、必要な知見や情報にアクセスしやすい仕組みをつくることも効果的です。
対策のアイデア
- 交流会や勉強会を企画し、自部署・他部署の社員と相談しやすい関係を築く
- 各分野のエキスパートに対し、誰もが気軽に相談できる体制を整える
- 資料や知識を部署間で共有できるシステムを導入する
【本人にできること】
本人ができる対策案としては、「難しい状況に直面したときは、きちんと同僚に相談してアドバイスをもらう」ことが方針となります。一方で、助けを求めることを、自分の能力不足をさらけ出すことのように感じ、抵抗感を覚える人がいるかもしれません。ただ、長い目で見れば、周囲の知識や知恵を借りたほうがうまくいくので、むしろ有意義であることを理解できるとよいでしょう。
また、忙しくても社内の勉強会や研修に参加することが、将来の自分を助けることにつながります。先を見て、いざというときに使える知識や、相談できる相手といった将来的なリソースを得ようとする姿勢を持つことがポイントです。
対策のアイデア
- 困難な課題に直面した際、専門知識を持つ同僚に相談し、アドバイスをもらう
- 社内の勉強会や研修に参加し、将来的なリソースを蓄える
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