「長期雇用を憎む」経営者 黒字リストラでベテランが去り、最後に笑うのは誰?:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
またもやリストラです。しかも、黒字リストラ。コロナ禍前から徐々に増え、アフターコロナを見据えた企業再編で一気に拡大した「今のうちに切っちゃえ的リストラ策」が次々と公表されています。
日本企業最大の問題は?
これまで世界中の研究者たちが、リストラの効用に関する研究を行い、分かったことが「リストラは短期的な効果はあるが、長期的なマイナス面の方が大きい」という歴然たる事実です。カネだけみれば短期的な効果は出ますが、長期的には「残された社員」と企業との関係が変わってしまい企業の土台が揺らぎます。
- 残された社員の組織コミットメントは低下する一方で、将来への不安感が高まる
- 残された社員の業務量は一時的に増加し、心身の負担増から生産性が落ち込む
- 残された社員の会社への信頼が著しく低下し、優秀な人材ほど転職する
- 残された社員同士の信頼関係が揺らぎ、企業文化が悪化する可能性が高まる
こういった社員の心理的な不安定さは、新しいアイデアの創出やリスクを取る意欲を阻害します。長期的なイノベーションの低下につながる可能性を指摘する研究者は少なくありません。
むろんリストラ発表が、市場にコスト削減への期待感を与え一時的に株価が上昇することもあります。希望退職を実施した企業はそうでない企業に比べて、業績や時価総額が向上しているとの報告もあります(Business Insider Japan 2024年10月29日)。
しかし、企業を支えるのは株主ではありません。自社の社員です。日本企業衰退の根本的な原因は、長期雇用や年功序列そのものではありません。真の問題は「能力発揮の機会」のなさです。人がイキイキと働くために絶対に欠かせない、能力発揮の機会というリソースの欠損が、日本企業最大の問題なのです。
- やったことが認められれば、「昇進できる機会」がある
- 自分で学んだ、あるいは高めたスキルと能力を「発揮できる機会」がある
- 責任ある仕事を成し遂げ、成果を上げれば、「昇給する機会」がある
- 会社に利益をもたらすと認められる、あるいは投資するにふさわしい「新しい仕事にチャレンジできる機会」がある
- 自分のやった仕事に対して、「正当に評価される機会」がある
これらの機会が、個人の行動や態度にプラスの影響を与え、やる気のあるモチベーションの高い社員を増やすことにつながります。逆に、機会がないことは、個人の隠された能力が引き出される機会そのものが失われることを意味します。人間には、本能的に「より良く生きたい」「より良い自分になりたい」と思う傾向があるので、機会の欠損は自尊心を低下させ、やる気を奪い、生きるエネルギーさえ奪い去ります。
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