“静かな退職”は悪じゃない なぜ「日本人は休めない」のに「生産性が低い」のか:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
一時期に比べれば、日本の長時間労働もやっと改善され、残業を美徳とする社会の風潮も薄れました。しかし一方で、いまだに「うまく休めない問題」は解決されていません。
しっかり休んでいる人ほど、生産性が高い
「忙しい人=できる人」「忙しい人=求められている人」という、猛烈サラリーマン時代の価値観の根深さなのか、あるいは「日本的マゾヒズム」の呪縛から逃れられないのか、理由は定かではありません。
ただし、明らかなのは「ぼんやりとする時間」を大切にしないことは、百害あって一利なし。少々大げさにいうと、自分にも他者にも“刃”になる危険な行為です。自分ががむしゃらに働いていると他者にも厳しくなり、人の失敗を許せなくなります。
そもそも、「働く」という行為は精神の緊張や心的負担を伴うため、「食べて寝れば自ずと回復する」という単純なものではない。回復や適応が極めて難しく、持続・蓄積・慢性化しやすい特徴があります。心的な疲れを癒すには長期的に仕事から離れ、適度な運動を行い、遊んだり、おしゃべりをしたりするなどのリカバリー経験を通じて、精神的なゆとりを取り戻す必要があります。それができてこそ、仕事にやりがいを持て、生産性も向上するのです。
例えば「働きがい」をテーマにした2019年版の労働経済の分析「労働経済白書」では、ワーク・エンゲイジメント・スコアを用いて働きがいを数値化し、働き方との関連を調べました。その結果、積極的にリカバリー経験をしている人ほど、働きがいが高く、労働生産性の向上を実現させる可能性が示唆されたのです。
具体的には
心理的距離:仕事から物理的、心理的に離れ、仕事に関することを一切考えない経験
リラックス:くつろいで心身の活動力を軽減する経験
熟達:余暇に時間を使って自己啓発に励む経験
コントロール:スケジュール=余暇時間に何をどのように行うのかを自分で決められる経験
を通じて、心と体が回復し、やる気がチャージされていたのです。
また、リカバリー経験は、「家族や恋人と過ごす」「自己管理力を高める」「普段から職場でプライベートな話をできる人間関係を構築する」「余暇時間に仕事が気にならないよう、計画的に業務処理する」といった業務遂行要因との関連も認められています。
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