クルマのブレーキはどう進化する? “最重要装置”の課題と未来:高根英幸 「クルマのミライ」(5/6 ページ)
クルマにとって最も重要な機能の一つがブレーキだ。ブレーキはクルマの黎明期から進化を遂げ、さまざまな機能を持つブレーキシステムが構築されている。摩擦式ブレーキの課題を解決する新しいブレーキも開発されている。今後もますます重要性は高まるだろう。
摩擦式ブレーキに代わるものは何か
電動車には回生ブレーキがある。トヨタのプリウスは初代モデルから回生ブレーキを備えている。これは電動モーターを発電機として利用することで、その抵抗をブレーキとして機能させるものだ。
さらに、発電した電力をバッテリーに蓄え、発進や加速に利用することでエンジン負荷を抑え、燃費を向上させる。ハイブリッド車やバッテリー式EVなどの電動車は、ほぼ全て回生ブレーキを備えており、強さも調整できる場合は摩擦ブレーキの使用を大幅に減らせる。
エンジンブレーキは、燃料を節約できるだけでなく、ブレーキパッドの摩耗も減らすので、積極的に利用したい機能だ。AT車でもギアをシフトダウンすることでエンジンブレーキを強く利かせることができる。
ディーゼルエンジンを搭載したトラックでは、スロットルバルブがないため、排気ブレーキでエンジンブレーキ性能を補っている。
さらにトラックには、リターダーと呼ばれる補助制動装置も装備される。これは磁力を使ったものと液体を使ったものがあり、どちらも抵抗により運動エネルギーを熱に変換する。摩擦ブレーキほどの制動力はないが、フェード現象など摩擦ブレーキが抱える課題は解決できる。
ハイパーカーでは、エアブレーキを導入しているクルマもある。ただしこれは、姿勢の安定や摩擦ブレーキの補助としては役立つが、メインのブレーキシステムにはなり得ない。
ブレーキサプライヤー大手の曙ブレーキ工業は、磁性体を使ったブレーキシステムを開発している。ジャパンモビリティショーなどの展示会で公開しているが、実用化されれば回生ブレーキと組み合わせて効率の良いブレーキシステムが構築できるかもしれない。
それでも、最終的に急激に停止させる制動力を発揮できるのは、現時点では摩擦ブレーキしかないのだ。ブレーキメーカーも、ブレーキダストの発生を抑える摩擦材などを急ピッチで開発している。あるいは、ドラムブレーキのように密閉構造として、温度管理することでフェードを防ぐディスクブレーキを作れば、ブレーキダスト排出という課題はクリアできるかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「国産VS.アジアン」選ぶ理由が変わった タイヤ市場の二極化とメーカーの打ち手
クルマを支えているタイヤ。実績のある国産タイヤメーカーのほか、近年はアジアンタイヤも広まっている。安さと安心でユーザーの選択は二極化している。ブリヂストンやダンロップなどは、時代の変化に合わせてどのように技術や戦略を進化させているのか。
BYDの軽EVは日本で売れるのか 苦戦が予想される“これだけの理由”
中国のBYDが日本で軽自動車のEVを投入すると話題になっている。しかし、日本で売れるのかは微妙だ。その背景には、モノづくりに対する根本的な考え方の違いがある。品質に対する姿勢が従来と変わらないなら、日本ではあまり受け入れられないだろう。
EVは本当に普及するのか? 日産サクラの「誤算」と消費者の「不安」
日産の軽EV、サクラの販売が伸び悩んでいる。EVは充電の利便性に課題があることに加え、リセールバリューの低さが問題だ。ならばPHEVだ、という傾向もあるが、PHEVにも将来的に懸念される弱点がある。EVやPHEVを快適に使うためのシステム整備が求められる。
自動運転は「レベル2」で十分である理由 完全自動運転も“完璧”ではない
中国メーカーの高性能EVで自動運転システムによる死亡事故が発生するなど、高度なシステムでも故障や事故は起こり得る。乗用車であればレベル2の運転支援システムで十分便利だ。ドライバーが運転を管理する方が、安全で確実なシステムになるだろう。
スポーツカーに未来はあるのか “走りの刺激”を伝え続ける方法
スポーツカーはクルマ好きの関心を集め続けているが、乗り回せる環境が限られるようになってきた。一方、マツダ・ロードスターなど価値のあるモデルも残っている。トヨタは運転を楽しむ層に向けた施策を展開している。今後のスポーツカーを巡る取り組みにも注目だ。