クルマのブレーキはどう進化する? “最重要装置”の課題と未来:高根英幸 「クルマのミライ」(6/6 ページ)
クルマにとって最も重要な機能の一つがブレーキだ。ブレーキはクルマの黎明期から進化を遂げ、さまざまな機能を持つブレーキシステムが構築されている。摩擦式ブレーキの課題を解決する新しいブレーキも開発されている。今後もますます重要性は高まるだろう。
ブレーキの課題をどう解決できるか
筆者はかつて、フルメタルパッドという競技用のブレーキパッドをテストしたことがある。それは制動力も十分で耐熱性も高く、ブレーキダストの発生も少ないという画期的なブレーキパッドであった。
しかし、制動時のブレーキ鳴きのすさまじさも相当なものであった。わずかなブレーキ鳴きでもクレームが多い日本では、一般的なブレーキ素材として受け入れられにくいだろう。
また、ディスクローターは柔らかい鋳鉄製とするのが一般的だが、ポルシェなどの高性能モデルにはセラミックとカーボンファイバーを焼き固めたカーボンセラミックブレーキも存在する。耐熱性の高さはさすがであるが、パッドとローターを交換するとなると、乗用車1台分の費用がかかるといわれており、とても量産車には導入できない。
メルセデス・ベンツのカーボンセラミックディスクブレーキ。ディスクローターをカーボンセラミック、パッドも近い素材で作られ、耐熱性が高く足回りの軽量化にもつながる。通常走行であれば耐久性も高い。他にもカーボンファイバーをカーボン(グラファイト)で焼き固めたディスクローターもある(写真:ダイムラーベンツ)
減らないブレーキパッドを開発できても、ローターがその分減ってしまうとあまり意味がない。パッドもローターも摩耗しにくい、硬い素材を使えば減りにくくなるが、それで摩擦をコントロールするにはブレーキシステム全体の見直しが必要になりそうだ。
また、硬い素材は固有振動数が高くなり、ブレーキ鳴きも発生しやすくなる。これをどう解決するかによって、ブレーキシステムの未来が決まってくるのではないだろうか。
クルマが完全自動運転になっても、ブレーキの重要性は変わらない。それどころかステアリング機構の補助装置としてブレーキを活用する考えもある。ますますブレーキの重要性は高まるだろう。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「国産VS.アジアン」選ぶ理由が変わった タイヤ市場の二極化とメーカーの打ち手
クルマを支えているタイヤ。実績のある国産タイヤメーカーのほか、近年はアジアンタイヤも広まっている。安さと安心でユーザーの選択は二極化している。ブリヂストンやダンロップなどは、時代の変化に合わせてどのように技術や戦略を進化させているのか。
BYDの軽EVは日本で売れるのか 苦戦が予想される“これだけの理由”
中国のBYDが日本で軽自動車のEVを投入すると話題になっている。しかし、日本で売れるのかは微妙だ。その背景には、モノづくりに対する根本的な考え方の違いがある。品質に対する姿勢が従来と変わらないなら、日本ではあまり受け入れられないだろう。
EVは本当に普及するのか? 日産サクラの「誤算」と消費者の「不安」
日産の軽EV、サクラの販売が伸び悩んでいる。EVは充電の利便性に課題があることに加え、リセールバリューの低さが問題だ。ならばPHEVだ、という傾向もあるが、PHEVにも将来的に懸念される弱点がある。EVやPHEVを快適に使うためのシステム整備が求められる。
自動運転は「レベル2」で十分である理由 完全自動運転も“完璧”ではない
中国メーカーの高性能EVで自動運転システムによる死亡事故が発生するなど、高度なシステムでも故障や事故は起こり得る。乗用車であればレベル2の運転支援システムで十分便利だ。ドライバーが運転を管理する方が、安全で確実なシステムになるだろう。
スポーツカーに未来はあるのか “走りの刺激”を伝え続ける方法
スポーツカーはクルマ好きの関心を集め続けているが、乗り回せる環境が限られるようになってきた。一方、マツダ・ロードスターなど価値のあるモデルも残っている。トヨタは運転を楽しむ層に向けた施策を展開している。今後のスポーツカーを巡る取り組みにも注目だ。