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日本企業の財産をどう守るのか スパイ防止の対策と限界世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

7月の参議院選挙以降、スパイ防止法の議論が話題になっている。日本も防諜機関の活動や法整備によって対策を進めているが、企業の情報が盗まれる事例は多い。スパイ対策を効果的に進めるため、海外の法律なども参考になるだろう。

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日本も取り入れるべき法律とは

 国家の機密情報を守るための法整備も進められてきた。まずは2014年に施行された特定秘密保護法だ。日本の国家機密は、機密度の高い順に「機密」「極秘」「秘」の3段階に分けられている。特定秘密保護法では「機密」「極秘」の情報を扱う人の適性調査を行い、審査の上で許可を与えることになった。

 この法律については、スパイ活動を防止するための法整備を求めてきた米国政府も評価している。自分たちが日本に共有した情報が、ある程度守られるだろうと納得したという。

 日本ではさらに、セキュリティ・クリアランス法(正式名称:重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律)が2025年5月に施行されている。これによって、「秘」の情報を扱う人たちにも適性調査などが必要になった。「秘」の情報は、防衛関係の民間企業も共同開発などで扱うことが少なくないため、企業関係者も適性調査が求められることになった。

 適性調査は、借金や薬物使用の有無、人間関係といった個人情報も報告させられるため、プライバシーの観点で批判の声も上がっている。また、一部の政府幹部に適性調査を求めない例外規定もある。

 こうした法整備で少しずつ、ほぼ丸腰だった日本もスパイ対策を進めてきた。しかし、まだ十分とはいえない。


日本も法整備を進めてきたが……(画像提供:ゲッティイメージズ)

 海外では、スパイ活動そのものを防止する法律以外にも、いろいろな法律を組み合わせて、スパイ対策を行っている。

 その中で、日本も早急に取り入れるべき法律がある。外国代理人登録法(FARA)だ。米国では、外国政府の依頼を受け、金銭を受け取りながら、ロビー活動や政治活動、メディア活動などをする場合には、「外国代理人」の登録をする必要がある。登録せずに外国政府のためにこうした活動をしていると、スパイとみなされるわけだ。

 日本でも同じような法律を作れば、外国勢力のために働いている人たちの動きを制限できるし、スパイ活動に対する抑止力になるだろう。政治家などへの影響工作も食い止められるはずだ。

 スパイ防止法は、1985年に中曽根康弘政権が議員立法で作ろうとしたが、国民の権利を制限する可能性があるという批判を受けて頓挫した。今回も、同じような批判の声が上がる可能性はある。外国代理人登録法であれば、日本人は規制の対象にならないため、異論が出にくいのではないか。

 いずれにせよ、最近は経済安全保障などの議論が活発になり、国益を守る意識が高まっている。スパイ対策を効果的に行う法整備を進めるべきだ。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。

Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル


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