水没車はどんな末路をたどる? 自然災害の増加で自動車ビジネスはどう変わるのか:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
水没車のほとんどは廃車となるが、その後もさまざまな形で活用される。特に海外では、日本で使われなくなった車両や部品も驚くほど有効利用されている。日本でも、リサイクルまで考慮した工夫やシステム構築をさらに進めるべきだろう。
新興国向けの新たなモビリティとは
「ジャパンモビリティショー2025」でも、日本から新興国への支援策的モビリティが展示されていた。
トヨタブースのステージの隅にあった、シャーシだけの軽トラックのようなコンセプトモデル「IMV Origin」。アフリカ大陸でもクルマの普及が進んでいない、中央付近の地域で使われることを想定したモビリティだ。
構造は極めてシンプル(といっても、パワートレインや駆動方式はまだ定まっていない)で、目的や用途に応じて改造や工夫ができるだけでなく、修理もしやすい仕組みがいくつも取り入れられている。現地では高額な中古のトラックより安い価格での販売を目指して、開発が続けられているそうだ。
一方、軽トラックの盗難件数も年々増加傾向にある。価格の大小にかかわらず、需要(?)の高い車両は、ターゲットにされやすいのだ。中東では絶対的な人気を誇るランドクルーザーや、北米を中心に人気の国産旧車なども盗難が問題視されているが、軽トラックも盗難されてコンテナに積み込まれ、持ち出されてしまうケースが多いという。
ようやく捜査のメスが入り始めたが、自動車盗難は検挙されても窃盗罪であり、被害額が1000万円規模になっても量刑はそれほど変わらないのが現状だ。
人命に関わるような犯罪ではない、というのは分かるが、日本人のような比較的厳格な倫理観(とはいえ自動車盗には日本人の犯罪グループも存在するようだ)を持たない人たちも増えているので、そろそろ本格的な対策が必要な時期でもある。水没車であろうと、他人のクルマであろうと、金もうけができれば何だって構わないという集団も存在するのだ。
「MOTTAINAI(もったいない)」は日本の文化であるはずだが、ことクルマに関しては、日本より新興国の方が上手に使い切っている印象もある。であれば、自動車メーカーも水没対策を考える必要が出てきたのではないだろうか。
自宅や会社などが被災したとき、せめてクルマの損害を軽減できる措置があれば、明日の活力、復興の原動力になることは間違いない。
平均車齢が伸びている昨今、クルマを最終的にどこまで使い倒せるか。新車を作って販売するだけでなく、リサイクルまで考えた設計や構造の工夫、さらに自動車産業としてのシステム構築をこれまで以上に緻密にする必要がある。
EVの普及には想定以上の時間がかかると見込まれているため、ガソリン車に長く乗り続けるユーザーは少なくない。よって、それを支える産業や市場がこれからも発展するだろう。自動車メーカーも部品供給年数を伸ばすなどの対策が必要ではないだろうか。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
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