女性駅員がデジタル人材に転身 JR西、コロナ禍の“危機感”から始まった全社DXの舞台裏(4/5 ページ)
コロナ禍を経て、「鉄道一本足打法ではダメだ」という危機感を持ったJR西日本。デジタル技術を活用した業務変革に取り組む同社には、駅員からデジタル人材に転身した社員も。同社のDX推進の現場を取材した。
エバンジェリスト2000人と一緒に進めるDX
従業員体験の再構築は、従業員向けのアプリの企画・運営に携わる野世氏の業務とも密接に関わる領域だ。同社ではこの取り組みを「Work Smile Project」と名付け、DXによる単なる生産性向上ではなく、「従業員が笑顔になる」ことを目標に掲げている。
推進の要となるのが、社内各部署から選出された約2000人の「エバンジェリスト」だ。本社、支社、現業機関のすべてに推進役を配置し、各職場でのDX推進を担っている。
DX施策を現場に浸透させる上で、同社が重視しているのは「システム部門からの一方通行にしない」こと。デジタルソリューション本部の宮尾氏は「決定事項を共有するのではなく、アイデアの段階からエバンジェリストのみなさんに情報を先出しするようにしています。その中で出てくる率直なフィードバックを施策に取り込みながら、最終的な形に落とし込んでいくのです」と説明する。トップダウンで施策を推し進めるのではなく、現場と対話しながら、一緒に形にしていく。その結果、施策への納得感が高まり、推進もスムーズになるという。
こうした取り組みの成果は、数字にも表れている。従業員体験の再構築において、同社は「変革実感率」という独自の指標を設けている。社員一人一人が変革を実感しているかを定期的に調査し、数値化したものだ。「『文化を変えていこう』『働き方を変えていこう』という取り組みを、どう数値で測るかは大きな課題でした。そこで、社員の変革実感を数値化してみようと考えたのです」(宮尾氏)
半期ごとに実施するアンケートでは、直近で社員の半数以上の約1万3000人が回答。変革実感率は53%に達し、取り組み開始当初の20〜30%から大きく向上している。DXにより本社社員の業務時間が月14.6時間削減されたほか、紙の削減率は、2020年4月比で約4割に上っているという。
変化は定量的なものだけでない。例えば「すごろく文化」と呼ばれていた紙の回覧による意思決定も、大きく変わった。「以前は、部下が資料を係長、課長、次長、部長に持って回りながら、承認を得ていました。今はTeamsで同時編集する形に変わり、時間や場所に縛られず柔軟に作業ができるようになりました」(古橋氏)
こうした変化を定着させるには、現場だけでなく経営層の意識改革も必要だ。そこで、同社は経営層向けに勉強会を実施し、生成AIなど最新技術への理解を促している。
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