タイヤはどこまで進化するのか ダンロップとブリヂストンが示す“次の一手”:高根英幸 「クルマのミライ」(4/5 ページ)
日本のタイヤメーカーを取り巻く環境は厳しい。安価なアジアンタイヤと差別化できる価値を生み出すため、国内メーカーは品質や技術を高めている。ブリヂストンやダンロップは、革新的な技術によって、これまでにない性能を持った製品を開発している。
老舗ダンロップが革新的技術の導入に目覚めた
ダンロップブランドを展開する住友ゴム工業は、日本で初めてタイヤ製造を行った英ダンロップの神戸工場をルーツに持つ。そのためか、どちらかというと堅実なタイヤ作りを続けてきたイメージがある。特出した性能や機能よりも、天候や走行条件によるグリップ性能の変化が少ない安定したタイヤを作るのがうまい。
それでも近年では、タイヤの内側に吸音スポンジを取り付けて静粛性を高めたほか、シミュレーションでタイヤ設計を効率化する「デジタイヤ」という技術をアピールしてきた。
しかし、設計技術や後付けの消音効果で解決できる問題ばかりではない。そこで2000年頃から、タイヤの省燃費技術を根本から引き上げるための基礎研究を始めた。通常の電子顕微鏡などではできないゴム分子の解析を、放射光を使って行うことにした。放射光とはレントゲンなどで使われるX線の仲間で、非常に短い波長で強い光が特徴だ。
最新のX線放射光分析施設、ナノテラスの内部。巨大な円盤に四角い筒が刺さっているような外観の建物。筒の部分にある電子ビーム銃から電子を発射して光の速度まで加速させることで、円盤状の部分に広がる何本ものビームラインに放射光を送り込み、計測を行う(筆者撮影)
通常の可視光線や電子顕微鏡では、どんなに拡大しても分子間の結びつきや原子レベルの分析はできない。X線の中でも特に波長の短い放射光を使うことで、原子レベルでの違いや状態を把握できるのだという。
形状は同じでも、また、新品では大差なくても、経年劣化などで差が付く材料や商品は、こうした研究開発や品質管理の違いが大きい。
そうした解析によって、ゴムが紫外線によって劣化したのか、オゾンによって劣化したのか、再架橋(ゴム分子がつながりを強固にして硬化する現象)によるものなのか、判別が可能になった。
ちなみに、こうしたゴム分子の放射光による解析はブリヂストンも行っている。日本は、大型の分析施設をいくつも保有する世界有数の国であり、こうした解析技術によって材料の進化を加速させている。
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