「JALとANA」どこで違いが生まれたのか? コロナ禍を乗り越えた空の現在地:【2025年メガヒット記事】(7/7 ページ)
インバウンド需要が旺盛で、日本の観光業界が盛り上がりを見せています。では、航空会社の業績はどうなっているのでしょうか。JALとANAの決算をベースに分析したところ……。
そもそもコロナ禍の大打撃の穴埋めはできていない
特にANAについては、「過去最高益」とセンセーショナルに報道され、インバウンド需要の回復もあって航空業界全体が順風満帆化のように感じられます。実際、業績は徐々に回復してはいるものの、そもそもコロナ禍の大打撃の穴埋めをするにはほど遠い状況です。
例えば、ANAに関しては、コロナ前の2020年3月期の自己資本比率は41.4%でしたが、コロナ禍で長期の借り入れを行った影響もあり、2022年3月期には24.8%と、ほぼ半減しています。過去最高益となった2024年3月期ですら29.3%と、コロナ前の水準には戻っておらず、財務的に余裕があるとはいえない状況です。
また、JALにおいても、コロナ前の2020年3月期の自己資本比率は45.0%でしたが、コロナ禍で長期の借り入れの影響で2022年3月期には32.4%に。大幅な増収増益を達成した2024年3月期でも34.3%と、コロナ前と比較すると10ポイント以上マイナスです。
先ほどのような「追い風」が吹かなくなることを考えると、両者の経営はこれからが正念場といっても過言ではないでしょう。
一度破綻を経験して筋肉質な経営になっているJALと、「選択と集中」が得意で厳しい環境下でも経営できてきたANA。これからの環境の変化に両者がどのように対応し、コロナ禍の穴埋めをしていくのか。今後の経営力に注目したいと思います。
著者プロフィール:
カタリスト投資顧問株式会社 取締役共同社長/ポートフォリオ・マネージャー
草刈 貴弘
大学卒業後、舞台役者などを経て2007年にSBIリアルマーケティングに入社。2008年にさわかみ投信に転じ、顧客対応部門、バックオフィスの責任者、アナリスト、ファンドマネージャーを経験し、2013年に最高投資責任者、運用調査部長、2015年取締役最高投資責任者に就任。2023年3月に現職のカタリスト投資顧問に入社し、同年6月に取締役共同社長に就任。
投資先企業の企業価値向上に直接寄与することで、日本企業の成長と資本市場の活性化と、個人投資家の財産づくりを両立することを志向する。ファンダメンタル分析を基にしたバリュー投資を軸に、持続的成長の転換点を探るのをモットーとする。現在、朝日インテック社外取締役。東洋大学理工学部卒。
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