「JALとANA」どこで違いが生まれたのか? コロナ禍を乗り越えた空の現在地:【2025年メガヒット記事】(6/7 ページ)
インバウンド需要が旺盛で、日本の観光業界が盛り上がりを見せています。では、航空会社の業績はどうなっているのでしょうか。JALとANAの決算をベースに分析したところ……。
追い風は長く続かない
業績を急激に回復させたJALとANAの両者。とはいえ、このまま景気の良い状況が続くのかというと、実は雲行きは怪しいと考えています。
ANAは2024年3月期決算発表の際、ロシアのウクライナ侵攻の長期化の影響による燃油費の高騰や、人件費の増加など、さまざまな下押し圧力があると述べました。それに加え、航空燃料費の補助金が2024年4月末で終わったこと、航空使用料の減免も2024年3月以降縮小したことも影響しうるとコメントしています。こうした状況を受け、ANAは2025年3月期の営業利益を250億円押し下げると見込んでいます。
また、インバウンド需要の急速な回復で、日本観光の盛り上がりが大きく報じられることが多々ありますが、実はANAの国際線の座席キロ数は、コロナ前の水準には戻りきっていません。ANAはコロナ前と比べると、北米路線は90%、アジア・オセアニア路線は80%ですが、中国や欧州は60%ほどしか戻っていません。
この状況は、当然ながらJALもほぼ同じです。座席キロ数は北米路線こそコロナ前以上の水準となっていますが、ハワイ・グアム線は60%ほど、中国線も70%ほどしか回復しておらず、全体としてはコロナ前の80%台の水準となっています。
2024年12月、岩屋毅外相は、中国の富裕層向けに10年間有効な観光ビザを新設し、団体旅行用のビザの滞在可能日数を30日に延長することを発表しました。ですが、中国の景気自体が芳しくないため、大きな需要回復要素とはなりえない可能性もあります。
こうした観光需要は景気に敏感なため、欧州や米国の景気が悪化したり、円高に振れたりした場合、訪日観光客が減る可能性があります。
また、ドル箱だったビジネス需要も、コロナ禍でのオンライン会議の定着により、戻りきらないことが予想されます。実際、2024年3月期決算で、ANAはコロナ前の約7割で推移すると述べており、JALも出張需要は同6割を超えるくらいのレベル感であると発表しました。
こうした背景もあり、これまでの「追い風」状態は長く続かず、むしろ「向かい風」になることすら考えられます。
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