「JALとANA」どこで違いが生まれたのか? コロナ禍を乗り越えた空の現在地:【2025年メガヒット記事】(5/7 ページ)
インバウンド需要が旺盛で、日本の観光業界が盛り上がりを見せています。では、航空会社の業績はどうなっているのでしょうか。JALとANAの決算をベースに分析したところ……。
収益性のANAと顧客数のJAL
航空会社各社にとって、大打撃だった新型コロナウイルスの感染拡大。各国の大手航空会社が経営破綻したり、大規模な公的支援を受けたりと、明らかに航空会社にとっては試練となったタイミングでした。このときの打開策も、JALとANAで違いが見られました。
ANAは、旅客輸送ではなく貨物輸送に重点を置き、収益率の向上を図りました。この戦略は財務諸表にも現れています。ANAの2021年4〜6月期の貨物事業の売上高は、前年同期比2.5倍弱の735億円であるのに対し、JALは同約1.8倍の476億円。
当時、JALは貨物専用機のチャーターサービスしかなかった一方で、ANAは貨物専用機を保有していたことも理由として挙げられます。ただ、この貨物事業の売り上げの伸び率の違いには、機材繰りの巧みさが現れたとも考えられます。
ANAはコロナ禍において、客単価を上げながら、できる限り貨物で稼ぐという戦略をとっていました。当時旺盛だった国際貨物の需要をとるため、貨物専用便を多く飛ばすのはもちろん、沖縄にあった貨物専用機を全て成田に集めて運航することで、貨物による売り上げを大きく伸ばしました。
また、激減した旅客需要に合わせ、座席供給量を落として需給ギャップを埋めるとともに、国際線で使用する旅客機を国内線に回しました。そして、ビジネスクラスのような上位クラスの座席を活用して、可能な限り高い価格で販売し、客単価を上げる戦略をとりました。
一方、JALは国の観光需要喚起政策「Go To トラベル」に注力し、旅客数を回復させることに成功しています。これは2023年3月期の座席キロの回復ぶりからも見て取れます。
しかし、「Go To トラベル」のようなパッケージ商品のデメリットは客単価が低いこと。その結果、旅客数の回復には成功したものの、利益率の回復ペースは緩やかでした。
両者の戦略は、どちらも業績回復に対して良い影響を与えました。しかし、利益率という観点で見ると、ANAのほうがJALを上回る回復を見せました。
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