預金3000万円でプラチナカード無料 三菱UFJ「50兆円の富裕層囲い込み」に透ける焦り(5/5 ページ)
三菱UFJ銀行が預かり資産3000万円以上の顧客を対象に、年会費無料のプラチナカードを提供する新会員組織を発表した。対象は顧客の2%ながら、個人預金の半分にあたる50兆円を占める層だ。「金利のある世界」の復活で預金の収益性が高まる中、一見攻めに見える大盤振る舞いの真の狙いは、親の世代交代に伴いネット銀行へ流れ出す「50兆円の相続流出」の防衛だ。メガバンク首位が仕掛けるLTV重視の防衛戦略の裏側に迫る。
攻めに見えて実は「守り」 新世代富裕層を取り込む一手
MUFGが想定する富裕層とは、どういう層なのか。山本氏は「年齢的には中高年の方が多くなる。士業の方も会社オーナーも、サラリーマンで中堅の方もいる」と説明する。3000万円という線引きは「退職金をいただいた方が入れるレベル」だという。「絞りすぎるとウエイトが小さく、広げすぎるとサービスが分散してコストがかかり、本当の意味で優遇できない。絶妙なところだと思っている」
数値目標も獲得の目標ではない。「対象となるお客さまが現時点で75万人ぐらいいるので、できるだけ75万人に近づけたい」。既存顧客の加入率を上げることが目標であり、外から新しい富裕層を連れてくる目標は置いていない。
新規獲得の道筋を問われた回答は、無料プラチナカードの新しさと、相談ニーズが出てくれば対面のビジネスにつなぐという2点だった。若年層はデジタルバンクの担当という役割分担である。コンセプトムービーのナレーションも「仕事に向き合い、大切な人を支えながら。そして今、来た道を見渡し」と語りかける。映像が想定するのはリタイア前後の層だろう。
一方で、富裕層そのものは増え、顔ぶれも変わっている。野村総合研究所(NRI)の推計では、純金融資産1億円以上の世帯は165万世帯と過去最多になった。NRIはこの中に「いつの間にか富裕層」と呼ぶ層があると分析する。法人オーナーや地主ではなく給与所得者出身で、資産構成はリスク性資産が中心だ。NISA口座でも約半分は20〜40代が占める(日本証券業協会)。
筆者の実感でも、若い資産形成層は預金を大量には置かず、投資商品で持つ。入会条件のもう一つの柱である「資産運用残高1000万円」も、現在のところ三菱UFJ銀行で保有する投資信託やファンドラップなどに限られる。ネット証券とNISAに資産を置く層は、運用額だけを見れば条件を満たしていても、三菱UFJ銀行に資産を移さない限り会員にはなれない。
ただ、それは設計の欠陥ではない。上位2%が預かり残高の半分を持ち、その資産が相続を機にネット銀行へ流れ始めているなら、新規獲得より流出防止に投資するのは合理的だ。「個人預金残高が2位の1.5倍」(山本氏)という規模を持つ銀行にとって、守ることが最大の攻めになる。
MUFGはグループ共通IDと共通ポイントの導入、2028年度にはグループのネット証券2社の統合を予定する。会員組織の入会判定も次年度以降、グループ各社の残高を合算する方式に移す。証券への導線については「新しいデジタル証券をここに入れれば、優遇も相当付けられる」(山本氏)
次の争点は2つある。一つは、共通IDと証券残高が入会判定に入ったとき、Excellent Clubが「預金の会員組織」から「運用の会員組織」に変われるかどうか。証券残高で判定して初めて、ネット証券に資産を置く層が視野に入る。もう一つは、預金3000万円という入り口を通らない新しい富裕層を取りに行く役が、それまで開業前のデジタルバンクに委ねられている形になることだ。守りの完成度が上がるほど、攻めをどこが担うのかが問われる。
MUFGが描く「エムット」の全体構想。Excellent Clubとデジタル相続プラットフォームを通じ、若年期から高齢期、さらに次世代まで顧客接点をつなぎ、預かり資産の維持・拡大を狙う(MUFG発表会資料より)
筆者プロフィール:斎藤健二
金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。
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