4.1兆円「推し活」市場へ動くVisa カード会員を持たない決済ブランドが音楽を押さえるワケ(2/2 ページ)
4.1兆円規模へ急成長する「推し活経済圏」に、決済ブランド世界大手のVisaが本格参入した。自らカードを発行しない同社は、ユニバーサル ミュージックやAdoなどの権利元と提携。カード発行会社(イシュア)へ「会員限定のチケット抽選や優先レーン」などの限定体験を供給する。ファンの反発を防ぐ倫理観と、限定価値を維持するビジネスモデルの持続性が問われる。
単発IPから「幅」のプラットフォームへ ユニバーサル×Visaが描く世界進出
会員限定の特典で利用を促す手法は、Visaだけのものではない。JCBは5月、プレミアムカードの会員に限ったライブ「JCB THE LIVE」を11月に開くと発表した。協力するのはVisaと同じユニバーサル ミュージックである。
9月のVisaとの基本合意について、ユニバーサル ミュージック上席執行役員の玉木一郎氏は発表会後の囲み取材で、特徴を「幅」という言葉で説明した。玉木氏は、1つのIP(知的財産)と1つのメーカーや販売店が組む形と比べてみせた。これに対して同社には、松任谷由実のように上の世代が支持するアーティストもいれば、小中学生がファンのアーティストもいる。「答えは1つではない。幅の広いことが、この両者が組む特徴だ」。玉木氏はそう表現した。
Visaの側にも同じ幅がある。里村氏は7月、アーティストには若手からシニアまでがいて、それによって組むイシュアのタイプが変わると話していた。世代の違うアーティストと、会員層の違うイシュア。2社が組めば、この2つを案件ごとに組み合わせられる。玉木氏もVisaと組む理由として、世界最大の決済会社であること、幅広い発行会社と付き合いがあること、多くの消費者とつながっていることの3点を挙げた。
組み合わせの先には海外進出もある。Visaは2024年にK-POPの授賞式「MAMA AWARDS」のタイトルスポンサーとなり、2026年まで3年間の独占スポンサー契約を結んでいる。「K-POPがとっくにできていたとすれば、J-POPは本当にこれから」と玉木氏は話す。
同社がカバー曲を配信するYouTubeチャンネル「Re:Re:Re:TUNE」は、玉木氏によると登録者が200万人近く、聞き手の約半数が海外にいる。ただし、今回の合意はVisaの日本法人によるものだ。リリースも、アジア地域の音楽フェスティバルでの連携を「視野に」協議を進めるという書き方にとどめている。玉木氏は「日本を中心に同心円的に広がっていったら」と期待を語った。
ファンを怒らせたら終わり 「熱狂の設計者」に求められる節度
アーティストとイシュアの組み合わせが増えれば、限定の特典も増えていく。ただ、ファンダム経済ではファンへの向き合い方を誤ると逆効果になる。Visaの会員だけが買えるということは、会員でないファンは買えないということでもある。里村氏も7月、限定感や独占感を出す際には「自分たちは参加できないのかという、変な恨みにつながらないよう、寄り添い方に気を付けたい」と話していた。
ユニバーサル ミュージックの側も線を引いている。玉木氏がVisaと組むにあたって重く見たのは、同じ方向を向いてものを作れるかどうかだ。「安易な道を求めると、それぞれのアーティストにとっては必ずしも幸せではないかもしれない」
『イン・ザ・メガチャーチ』は、ファンダム経済を3つの視点から描く。朝井氏の言葉では「構築する側」「仕掛けられる側」「かつて深くのめり込んでいた側」だ。同じ熱狂でも、立つ側が変われば見え方は変わる。特典の条件を満たそうと会員が利用額を増やすことは、構築する側から見れば施策の成功である。仕掛けられる側から見れば、推しのために出費を重ねたことになる。Visaとユニバーサル ミュージックが立つのは構築する側だ。里村氏が「変な恨み」を口にし、玉木氏が「安易な道」に触れたのは、それぞれの立場からファンの熱狂に手を入れる危うさを、当事者として自覚しているからだろう。
その自覚を保ったまま規模を広げられるか。限定の特典は、組むイシュアや会員が増えるほど限定ではなくなる。ユニバーサル ミュージックはJCBとも組んでおり、他の国際ブランドが別のレーベルやIPと組む余地もある。似た特典がどのブランドでも手に入るようになったとき、イシュアが手を挙げ続ける理由を、Visaは利用額や参加率の数字で示せるか。限定の価値を保ったままどう広げるかは、推し活で顧客を囲い込もうとする企業に共通する課題だ。
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