WhidbeyへのいざないVisual Studio Magazine(5/7 ページ)

» 2004年08月13日 16時50分 公開
[Don Kiely,FTPOnline]

ADO.NETがエンタープライズアプリケーションの開発をより簡単に

 Whidbeyは数多くのADO.NET拡張を含み、エンタープライズアプリケーションの開発をより簡単にする。これらの拡張により、コード記述の簡素化と、各種のバックエンドデータベースへのアクセス、そしてオブジェクト/リレーショナルマッピング形式の実装などが追加されている。以前から、ADO.NETはIDbConnection やIDbDataAdaptorといったインタフェースを持ち、データベースを意識しないコードをユーザーに記述させている。しかし、これらのインタフェースは、SqlClientなどのデータベース特有の名前空間からなる機能のサブセットのみを含んでいた。Whidbeyは、基本的なデータエンジンの若干の機能を放棄する一方で、プロバイダー固有のコードとカスタムコードをユーザーに分離させる。

 ビジネスアプリケーションは、リレーショナルデータベースにストアされるときのダイレクトマッピングである中間階層のオブジェクトを稀に使用する。リレーショナルデータベースがオブジェクトの基本的な状態情報のストアにおける最も便利な方式であるにもかかわらず、.NETコンポーネントはリレーショナルオブジェクトではない。この結果ツールベンダーは、リレーショナルデータからオブジェクトへのマッピングの開発を行い、現実的なテクノロジーへと戻っていくことになる。

 ADO.NETの類型化されたデータセットはORM(Object Role Modeling)に向けた第一歩であったが、パフォーマンスの問題に苦しみ、リレーショナルデータとオブジェクトのブリッジというよりはリレーショナルに特化したモデルであった。VS.NETで行うMicrosoftにとって初めての現実的なORMサポートは、ADO.NETにおけるWhidbeyのObjectSpacesテクノロジーである。

 ObjectSpacesは類型化されたデータセットの進化ではなく、オブジェクトデータのストアと検索を行う階層を、オブジェクト指向のアプリケーションロジックとデータソースの間に提供する。これが意味するのは、リレーショナルもしくは他の方式によるストアであっても、基底のデータソースに関する各種の情報を、オブジェクトが持たずに済むということだ。

 Whidbeyは特にALM(Application Lifecycle Management)の部分で数多くのエンタープライズ向けの機能を持つ。MicrosoftはWindowsと.NETをベースにしたALMツールの完璧なスイートを開発中だ(関連リンク参照)。WhidbeyはVS.NETを包括的な開発ソリューションへと方向付ける同社の最初の攻勢であり、他のツールに先んじて飛躍するだろう。現在の.NETとVisual Studioにも多少の成熟がみられるが、各種のプラットフォーム上でMicrosoftのライバルとなる、JavaやLinuxの世界におけるオープンソースツールイニシアチブと競合するのに都合の良いものに過ぎない。

 MicrosoftのALMに関する計画は、その見据えている範囲を考えるとハラハラする。それはVisual Studioでの表明に関するロードマップであり、そこに含むことになるのは「要件の集積およびソフトウェア分析と設計、アプリケーション構築、管理形態のコンフィグレーションと変更、アプリケーションテスト、ソフトウェアのディプロイメントとオペレーションなどに関するサポート」だ(関連リンク参照)。

 これらはハイレベルな注文であり、これまでにMicrosoftがコンフィグレーション管理製品であるVisual SourceSafeを乗り超えていないように見えるだけに、容易なことではないといえる。SourceSafeには、この数年間に意味のあるアップグレードが行われておらず、その競合相手の陰で朽果ててしまっている。

 Visioは素晴らしいグラフィックデザインアプリケーションだが、VS.NET Enterprise Architectエディションに含まれるバージョンは、エンタープライズレベルのアプリケーションで求められるニーズに対しては、月並みな環境である。Visioは見事なUMLと、全体のリレーションシップダイアグラムを容易に作成できるが、IBM RationalのUMLツールやEmbarcadero TechnologiesのER/Studioなどの競合製品が注力する、確実な分析やコード生成を行うためのいくつかのツールが欠落している。

 Visioについては他にも問題がある。Visioのページオリエンテッドなメタファーでは、複雑なデザインの作成と管理が難しく、また、そのUMLとデータベースダイアグラムの作成に関する有用性にはいくつかの制約がある。このデータベースダイアグラムは、データベースサブモデルをマージするなどの、Microsoftのマーケティング効果を達成するための奇妙な修正を要求する。

 Visioがエンタープライズアーキテクチャデザインのために広く使われているのは、VS.NETに無償で提供されているからであり、タスクに適しているからではない。Microsoftが今後もエンタープライズデザイン環境にVisioを組み込むかどうか、それに対する言及はまだない。それに換えて私が望むのは、ニーズを本当に満たすツール群を同社が導入することだ。

 とはいえ、これらの欠落はサードパーティのツールや製品で補うことができる。Microsoftは新しく革新的な方式により、サードパーティツールのVS.NET IDEへのインテグレーションに門戸を開いている。例えばUMLのデザインに関してIBM RationalのXDE Developerチームは、一般の設計者たちと同様にVS.NETの資質を理解している。サードパーティツールのインテグレーションのサポートが、Whidbeyの成功における1つのカギになるだろう。

 Whidbeyは一企業から高尚な野心ともに提供される革命的な製品であり、エンタープライズ領域のツールにおける支配者であろうとするものだ。これらのテクノロジーの実装と、各種プラットフォーム上での目も眩むほどバラエティに富んだアプリケーションタイプのサポートにおいて、Microsoftは多くの知的な決定をしている。しかし、まだ取り組むべき重大な欠陥があり、最終的に出荷される時にWhidbeyがどんな形になるのか、それが見えていないといえる。

執筆者について
 Don Kiely氏は、アラスカのFairbanksに住むベテランの技術コンサルタントである。ソフトウェアを書いていない時には、このように原稿を書いたり、カンファレンスに出たり、あるいは開発者たちをトレーニングしたりしている。彼にコンタクトするには donkiely@computer.org まで。

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