IBM幹部「今こそ半導体業界に“次の一手”が必要だ」

トランジスタの小型化による性能向上が限界に向かう今、1980年代にバイポーラトランジスタからCMOSトランジスタに切り替えたときのような転換が必要だとIBM幹部は唱える。(IDG)

» 2004年10月06日 16時56分 公開
[IDG Japan]
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 トランジスタの小型化によって性能向上を達成する時代は過去のものとなっており、半導体業界は、システムレベルの機能がトランジスタゲートの微細化と同じように重要となる新しい技術革新の時代に入らなければならない――。IBMのバーニー・メイヤーソン氏は10月5日、Fall Processor Forumの基調講演でこう語った。

 半導体設計者は長年、2年サイクルのプロセス技術の微細化をひたすら追求し、プロセッサ性能を大幅に高めてきたと、IBMシステムズ&テクノロジー部門で副社長兼チーフテクノロジストを務めるメイヤーソン氏は述べた。トランジスタの小型化により、半導体設計者は世代間で多くの機能を変更することなく、プロセッサのクロック速度向上とキャッシュメモリ増量、サイズ縮小を実現できたという。

 メイヤーソン氏によると、90ナノメートル(nm)プロセス世代の到来に伴い、ほとんどの半導体メーカーはこの戦略の変更を余儀なくされている。半導体が極めて微細になったため、シリコンチップ上の原子レベルの欠陥が通常の100倍ものリーク電流を発生させるおそれがあるという。

 現在の設計はプロセッサ内部の技術革新に依存しているが、今後は半導体とシステムレベルの技術革新に伴って性能が高まるだろうとメイヤーソン氏は述べた。こうした革新が今後進む分野は、デュアルプロセッサコアや組み込みメモリ、ソフトなどだという。

 「この業界は未踏の道を歩み始めたばかりだ。われわれは何が将来の成功につながるかを見極める必要がある」(メイヤーソン氏)

 メイヤーソン氏が提起した課題は、カリフォルニア州サンノゼのフェアモントホテルで開催のFall Processor Forumに集まった半導体設計者や業界観測筋にとって意外なものではなかった。90nm世代でのリーク電流の問題や、業界最大手のIntelが猛烈なペースで推進してきたクロック速度の向上が鈍化していることは、この1年、ほとんどの大手マイクロプロセッサベンダーと調査会社にとって最大の関心事となっている。

 1980年代には、プロセッサの技術革新を順調なペースで進めるため、バイポーラトランジスタに代えてCMOSトランジスタが使われるようになったとメイヤーソン氏は語った。今、業界は同様な「次の一手」を打つ必要があるが、こうした転換をどのように実現するかについては多種多様な意見があると同氏は指摘する。

 デュアルコア設計は、業界が性能向上ペースを維持する方法として期待しているものの1つだ。IBMは2001年に「POWER4」を投入して以来デュアルコアプロセッサを提供しており、業界の多くの企業は同じ進路を取ろうと計画しているとメイヤーソン氏は語る。シングルコアプロセッサよりも低速な2つの独立したプロセッサコアを載せることで、消費電力の大幅な増加を招くことなく、シングルコアプロセッサを上回る性能を実現できる。

 しかし、半導体メーカーは、1つのチップにできるだけ多くのプロセッサコアを詰め込むという誘惑に耐えなければならない、とメイヤーソン氏はクギを刺す。この路線を取ると、シングルコア設計で高速化にまい進してきたこれまで同様、1つの方法への依存からいずれは壁にぶつかってしまうからだ。

 当然のことながら、メイヤーソン氏はプロセッサをどう進化させるべきかを示す例として、IBM製品を引き合いに出した。IBMの最新のスーパーコンピュータ「Blue Gene」に搭載されている何千個ものプロセッサは、ほかの多くのプロセッサよりもはるかに低速だが、システムレベルのエンジニアリングを活用して高性能を確保しているという。

 米ローレンス・リバモア国立研究所向けに開発されたBlue Geneシステムは最近、Linpackベンチマークで36.01TFLOPS(1秒間に36兆回の浮動小数点演算が可能)の性能を達成、IBMは世界最速のスーパーコンピュータメーカーの座を奪還した(9月29日の記事参照)。だが、Blue Geneで最も面白い点は、これまで最速だった地球シミュレータの100分の1のサイズのシステムでこの性能を達成したことだ、とメイヤーソン氏は語る。また、同システムは消費電力も地球シミュレータの28分の1だという。

 トランジスタの小型化は今後も続くだろうとメイヤーソン氏は語る。IBMやIntelなど半導体各社は、2〜3年ごとにプロセス技術の微細化により世代交代を進める方針を堅持している。だが、歪みシリコンやシリコンオンインシュレータ(SOI)など最近の半導体製造技術の革新は、プロセス技術の微細化が世代を追って進み、仮想化などの技術が普及していく中で、さらに重要性を増すだろうと同氏は語った。

 「前途には大きな可能性が広がっている」(メイヤーソン氏)

 Fall Processor Forumは10月5〜6日の2日間にわたって市場調査会社In-Stat/MDRの主催で開催され、AMDやSun Microsystems、Transmetaなどの半導体会社がプロセッサの性能向上への取り組みについて説明を行う。

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