Eliicaが産学連携で実現する「今、目の前にある未来」(2/2 ページ)

» 2004年11月01日 00時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
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環境について

ITmedia 「環境にやさしい」車ということですが、従来の車と比べてどう違うのですか。

田村 石油などのエネルギーを利用しても、内燃機関に比べてエネルギー消費は4分の1で済みます。エンジン車はその構造上、必ず駆動ロスが発生しますが、Eliicaは、8つの車輪それぞれがモーターを備え、駆動力を直接タイヤに伝えることができます。もちろん車体への空気抵抗やタイヤ摩擦などの駆動ロスは電気自動車でも発生しますが、エネルギー消費の観点から比較してみても、エンジン車を凌いでいます。また、走行中の排気がないことなども、環境面ですぐれた車といえるでしょう。

 現在市場に存在する環境に配慮した自動車は、燃費は倍になっても、加速性能の面で劣っています。しかし、Eliicaはポルシェなどよりも速い動力性能を持っています。環境性能と動力性能の両面で従来の車を大きく引き離しているといえます。

ITmedia 現在の内燃機関型から電気にシフトするということは、量的には部品数の削減、質的にはCO2の削減などの環境問題に寄与することは間違いないようです。しかし、現状では、政府も自動車産業も、燃料電池へ力点を置いているように見えます。

田村 リチウムイオン電池の原理自体はアメリカ発ですが、日本が技術的に進歩させたものといます。現在ではすでに「実用に耐えうる」技術とみなされ、リチウムイオン電池の開発には国の援助や補助が出にくくなったように思います。

 また、自動車企業は、約100年間蓄積してきたすばらしい技術を持っていますが、ほとんどのパーツが外注されている現状で、彼らの本当の意味での資産が何かといえば、エンジンの部分です。しかし、電気自動車ではエンジンを必要としません。そうなってくると死活問題となってくるのです。しかし、さすがに何も対策しないわけにはいかないので、メッセージを伝えるために燃料電池に取り組んでいるという印象を受けます。

 しかし、燃料電池に必要な水素を取り出すプロセスや、そのリスクを考えると、リチウムイオン電池のほうがはるかに効率的です。

すでにコンセプトカーといった遠い話ではない

ITmedia 2007年の発売を目指すとありましたが、今後、クリアしなければならない問題にはどのようなものがありますか。

田村 まずは安全性と信頼性です。さらに価格です。これはリチウムイオン電池そのものがまだ量産化できないことに起因しています。工業製品はいったん普及がはじまると、一気に短時間で普及する傾向があるのですが、需要がないものを生産することはありません。この現状を打破するため、まずは見込み需要を高めようとしているところです。

ITmedia 今後、市場に認められるためには、さまざまなテストを重ねるなど、さらなる研究投資が必要になりますね。

田村 そのとおりです。商品化を実現するには、テストを繰り返し、安全性、信頼性、生産性を確立する必要があります。この部分は地道ですが非常にコストがかかる部分です。

 私たちはこれを「DEATH VALLEY」と呼んでいます。テストのフェーズは、深い谷にあたりますが、この深い谷を渡らなければ、市場に認められる商品にはならないのです。Eliicaプロジェクトは、いままさにこの位置にいるといえます。


 環境と調和した社会を築くには、すぐれた環境技術を有するベンチャーが育っていくことが求められる。しかし、自動車産業や装置産業のようなものづくり産業は、ベンチャーが成功するのが困難な産業である。産学連携で研究室のすぐれた技術に、それを事業化できる人材が組み合わさることで、ようやくそれを打破できる状態になってきたといえる。

11月23日から24日にかけて開催される「SFC Open Research Forum 2004」では、このEllicaを実際に目にすることができる。カタマラン(双胴船)をモチーフとした美しいフォルムを持つEllicaを目の当たりにし、遠くない未来への思いをはせてみるのはいかがだろう。

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