ベストオブブリードで構築する高精度の在庫管理システム導入事例(2/2 ページ)

» 2004年12月12日 00時30分 公開
[怒賀新也,ITmedia]
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 同システムの中心となるのがPeopleSoftのEnterpriseOneだ。EnterpriseOneは、SCMシステムに受注、製品、在庫情報を提供する一方、実際に立案された購買計画情報などを蓄積する。BIシステムやCRM、Webアプリケーションとも、顧客や受注情報のやり取りを行っている。ちなみに、同社がEnterpriseOneを導入したのは、同アプリケーションがまだPeopleSoftと合併する前の旧J.D.Edwardsだったため、「社内的にはJDEと呼んでいる」(杉山氏)という内情もある。

杉山氏

「自社システムの設計はやりやすい」

 杉山氏は、システムを構築する上で苦労した点について聞かれると、「自分で自社のシステムを構築できる状況は比較的楽です」と応じた。同氏は、RS入社前に、12年間にわたりシステム系コンサルティング企業で開発に携わっていたという。そのため、システムを設計する上で、ビジネス要件とすり合わせることの難しさを身を持って体験している。自社のシステムならば、「あるべき姿」の実現に向けて、業務要件とシステム設計を同期化する作業もやりやすいというわけだ。

 実際に、旧システムには無駄な業務もあった。その方法が採用されている理由が単に、「英国でやっているから」という場合も多かったという。「業務要件が明確化していない限り、どんなアプリケーションを導入してもそれが成功かどうかは分からない」というのが同氏の根本的な考え方だ。

 たとえば、コールセンターを中心とするCRMシステムの導入は同社にとって初めての取り組みだったため、最初は上手な方法が分からなかったという。そこで、同氏は、「まずは3年待とう」を基本に運用を開始した。そして、この3年間の中で、顧客とのやり取りに関する試行錯誤を重ねながら、コールセンターにおける理想的な業務プロセスを確立するために必要な要件を探り、システムの最適化を図ろうというわけだ。

 ところで、大手ERPベンダーは、同じ企業の製品同士ならば、接続性に優れ、バージョンアップもしやすいため、結果としてTCOを低く抑えることができるという主張をしている。これに対し、ベストオブブリード型でシステムを組んだ場合、一方のアプリケーションをアップグレードした瞬間に、別のアプリケーションとの接続性が微妙に損なわれるなど、システムの整合性の維持が難しくなるといった問題が発生することも想像できる。これについて杉山氏は、「データの設計さえしっかりしてればあまり問題にならない」という。

 EAIがアプリケーションの違いを吸収することや、PeopleSoftを含めて、多くのアプリケーションベンダーが、ほかのアプリケーションとの接続性を確保するアダプターを提供していることからも、要であるデータのモデリングや設計がしっかりしていれば、大きな問題にならないとしている。

カギを握る在庫管理

 RSのビジネスの形態から考えた場合、バックエンドの業務で最も重要になるのは在庫管理だ。最新のカタログVol.12に掲載されている5万121点の製品1つひとつに対して、需要予測アプリケーションがフォーキャストを算出している。

 需要の予測値であるフォーキャストの算出には、過去36カ月の時系列実績データをベースに、顧客の平均購買量なども反映される。一方で、供給側であるサプライヤーに関する情報として、納入リードタイムや最小発注単位なども加味した上で、Supply Planningを勘案する。このように、フォーキャストは、需要と供給側の状況を把握した上で、需要の平均的な予測値として算出される。

 ただし、需要が多すぎる、少なすぎるなど、フォーキャストの数値に異常が見られる製品については、月に一度、例外処理として、手動でフォーキャストを見直すという。実際に、手動で数値を見直す製品はおよそ7800点に上る。また、前日に、顧客からの発注に対応できず、受注処理を完了できなかった「ロストアイテム」については、毎日レビューして数値を見直す。さらに、サービスレベルの達成率を目標数値として設定することで、顧客満足度を維持しようと努めている。

 このように、アプリケーションによる予測の自動化と、例外への対応をきちんと行う仕組みにより、無駄のない在庫水準を常に保つことを可能にするビジネスプロセスを構築したことが、RSの強みだ。ERPを核に、顧客分析、コールセンター、生産管理など、業務のあらゆる部分でITの能力を最大限に引き出した業務プロセスを構築した同社の情報システムは、IT関係者の中で非常に注目されている。

本社のコールセンター。2つのディスプレイを連結させることで、担当者はさまざまな情報を同時に参照することができる。
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