時差を利用して命を救う医療情報メッセンジャーサービス

夜勤の若手医師らの緊急の問い合わせに、地球の裏側からチャットで答えるというサービスが英・豪間で開始された。(IDG)

» 2005年02月10日 20時05分 公開
[IDG Japan]
IDG

 オーストラリアと英国の医師らが、救命のために迅速な医療情報を提供する深夜の「救命網チャット」をスタートした。

 地球の反対側に位置する2つの国を結んだこのプロジェクト、「Chasing the Sun」は、医療従事者向けの国際バーチャルリファレンスサービスとして初めてのもの。夜勤の医師や看護師から寄せられる深夜の患者治療中に生じた質問に、地球の裏側の姉妹都市の医療図書館司書がチャットサービスを利用して答える。

 2月4日に正式スタートしたこのサービスは現在、英国のクイーンエリザベス病院とオーストラリアの王立アデレード病院の臨床医師が利用中。ほかの州や国にも広げていく計画だ。

 「このサービスは、参考資料を探すために図書館が開くのを待てない状況にいる若手の医師や看護師をターゲットとしている」とプロジェクトのコーディネーター、マリー・ピーターソン氏。

 共同作業のアイデアは、2001年に英国国民医療サービス(NHS)の代表がオーストラリアを訪問した際に持ち上がった。

 臨床医は、カスタム設計されたメッセージングソフトを使い、海外の医療図書館にすぐにリクエストを送ることができる。

 司書側のインタフェースは、時間の節約のためにあらかじめ回答を用意でき、また、リクエストの状況や過去のリクエストへの回答をチェックすることも可能。

 チャットのやりとりは、より適切に質問に答えられる別の司書に転送することもできる。

 共同作業が可能なのは、英国とオーストラリアの保健機関による医療従事者の訓練方法が類似しているため。

 しかし、共通のサービスレベルやリソースを設定し、適切なメッセージングソフトを見つけるには何年かかかった。

 将来的な開発とトレーニングを監督し、すべてのリクエストに確実に答えが返されるよう管理するために、両国にシステム管理者が配置された。

 管理者とユーザーのための、サービスレベルと使い方を規定した覚書も制定された。

 しかし、もう1人のコーディネーター、スー・ロックリフ氏によれば、病院のITシステムのファイアウォールによって強力なセキュリティがかけられているため、ソフトの選択肢は限られたという。

 プロジェクトチームは、司書用のリモートアクセスソフトを使って、臨床医によるデータベース検索を助けられるようにする形も検討した。だが、病院の規定に照らすと、この方法ではセキュリティとプライバシーの侵害に対してあまりに脆弱だとされた。

 そこでプロジェクトチームは、有料無料併せてメッセージングソフトを検討した。

 Yahoo! Messengerなどの無料ソフトは、応答時間の面で信頼性に欠けることと、メッセージ記録を適切に取ることができないことから、すぐに候補から外されたとロックリフ氏は言う。

 商用ソフトの中にはもっと強力な製品があったが、このプロジェクトには、ライセンスが高くついた。

 プロジェクトチームは、医師からのリクエストを複数の司書が見て、最も回答に適した司書1人が答えるという仕組みを考えていた。

 リクエストに答えるために使うのはたった1人分の「シート」なのに、複数のシートライセンス料を支払うというのはコスト効率が悪い。1つのシートを複数人で時間帯を分けて使ったり、譲り合ったりするのも現実的ではない。

 プロジェクトチームは最終的に、非営利の米国議会図書館が開発したQuestionPointを採用することにした。

 Chasing the Sunは昨年11月、バグ取りを目的とする「ソフトローンチ」を行ったとロックリフ氏。しかし、まだユーザートレーニングという難問が残っていた。

 こうしたメッセージングソフトは、使うのは簡単なのだが、ユーザーにシステムの「オーナーシップ」を促すのが難しかったとロックリフ氏は説明する。

 「より多くの人にシステムを利用してもらうためには、対面式のトレーニングが必要」と同氏。

 「司書に朝一番でシステムにログインする義務を持たせる、ログオンコンプライアンスが必要だ」という。

 Chasing the Sunは、今のところオーストラリアで資金源を確保していないが、将来的には、トレーニングのための資金援助を求めたいとロックリフ氏は語っている。

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