ユーザー間通話が完全無料のSkypeが、基本的に有料サービスである電話の市場に与えるインパクトは、決して小さくはない。では、企業において、このコミュニケーションツールはどこまで「使える」のか。国内の導入事例も含め、その可能性を考える。
最近、何かと話題になることが多いP2P(ピア・ツー・ピア)型のIP電話ソフトウェア「Skype」だが、特にその利用者数の伸びは目を見張るものがある。2003年8月にベータ版が発表された後のSkypeの普及スピードは、単独のソフトウェアの中では間違いなくトップクラスといえるだろう(図1)。
公開後、1年もたたない2004年4月の時点でダウンロード件数が1000万件を突破し、2005年に入って5000万件を超えている。そのうち実際に登録を実施したユーザーの数は現時点で2000万人を超えるといわれており、このスピードで普及したアプリケーションは、インターネットの歴史の中でもNetscapeやHotmailなど数えるほどしかない(画面1)。
特筆すべきは、Skypeが「電話」という一般的には有料サービスであった世界をベースに普及している点だ。NetscapeやHotmailが成長過程にあったインターネット市場と併行して拡大する役割を担っていたのに比較すると、数兆円を超える市場規模を持つ電話市場に対して、完全無料通話を実現するSkypeは、「破壊者」に近いインパクトを持っているといえる。
そのインパクトの大きさは、コーリン・パウエル元米国務長官がSkypeを見たときに「これで通信業界は終わった」と発言したという逸話があるほどで、今後もさまざまな分野に影響が出てくることは間違いないと考えられる。
Skypeがこれだけの勢いで普及している理由を改めて考えると、ポイントはおそらく次の3点にまとめることができるだろう。
1. インターネット経由とは思えない素晴らしい音質
まず1点目のポイントとして挙げたいのは、Skypeの高い音質だ。Skypeが「一般電話よりもクリア」と表現しているように、Skypeが実現した音質のよさはこれまでのソフトフォンのレベルを大きく超えている。
初期のSkypeにおいて、Skypeが口コミで普及するのに最も影響したのは、この音質のよさだったといわれるほどである。
2. NATやファイアウォールなどの利用環境を意識しない設定の簡易さ
類似の無料音声チャットを実現するソフトウェアは、実はSkype以前にも複数存在していた。だが、利用するうえでファイアウォールなど、ユーザー間の通信環境の設定の煩雑さが障壁となっていた。Skypeは環境設定の容易さで、その壁を取り払ったといえる。
Skypeは難しいネットワーク設定や環境調査とは無縁で、どんな環境でも簡単に始められるため、ITリテラシーを問わない幅広い層が試すことができた。
特にコミュニケーションソフトは、口コミで広がる過程で家庭だけでなく企業や大学などのさまざまな環境に伝播していくことになるため、利用環境を問わずコミュニケーションに参加できるという点が、ほかのVoIP系ソフトとの大きな違いといえる。
3. 通話が無料で広告もない
正確にいうと、Skypeから一般電話への通話、つまり「SkypeOut」機能の利用には料金がかかるが、Skype同士での通話に限定すれば、基本的に無料である。ユーザー間の通話はもちろん、一般的なVoIP系サービスのビジネスモデルである定額の基本料金ですら、Skypeの場合は支払う必要がない。
すべてのサービスが無料で使えるということは、口コミで評判を聞いたユーザーが試すための障壁が非常に低いということである。それまでの電話やVoIP系サービスのビジネスモデルを完全にひっくり返してしまったということもできるだろう。
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