AX100では、接続インタフェースとしてFCとiSCSIの選択が可能だ。iSCSIモデルならば、一般的なギガビットイーサネットカードとイーサネットスイッチがあればSAN(IP SAN)を構築できる。すでに多くのサーバが、2ポートのイーサネットインタフェースを装備しており、LANに利用していない空きポートを活用すれば、サーバ側への投資は不要である。また一般的なイーサネットスイッチが利用できるので、ネットワーク構築時の外部機器整備も安価に済む。現在ではギガビット対応のスイッチでも数万円程度で購入できる。FCスイッチ(標準的に100万円程度)に比べると、SAN構築のコストを大幅に下げることが可能だ。
気になるiSCSIの性能について雨堤氏は、「確かに安定した高い性能を求めるのならばFCの方が有利です。しかしAX100がターゲットとしている中堅・中小企業における用途ならば、iSCSIモデルでも十分な性能が発揮できます。社内のラボで実施した検証結果でも、一般的なファイルサーバや業務アプリケーションによる利用など、大規模なデータベースでなければ、iSCSIモデルでも十分に対応可能でした」と、多くの用途で問題がないことを示した。
またシリアルATAディスクの採用による信頼性の低下も気になるところだが、同氏はこのように語る。
「確かにシリアルATAディスクを採用していることで、信頼性を心配している方もいらっしゃるようです。しかしAX100では十分な信頼性を確保しています。まずEMCでは、事前に十分な検証を行った上で、採用するディスクを認定しています。これは非常に厳しい基準です。次に『CLARiX RAIDアレイ・アーキテクチャ』のデータ保護機能によって、CXシリーズと同等の信頼性を確保しています。またRAIDによるデータ保護に加え、512バイトのデータごとに8バイトのチェックサムを追加して書き込むことで、エラー検出やエラー訂正精度を高め、ディスクの故障時におけるデータ損失の可能性を低減させる機能も備えています」
さらにバックグランドでディスクをチェックし、故障する前に異常を検知する仕組みも採用しており、ディスク不良の前兆を早期に把握できる。これらにより、致命的な障害が発生する前にディスクを交換可能であり、万が一故障した場合でも、貴重なデータが失われないように、何重にも安全対策が施している。シリアルATAディスクであっても、ネットワーク・ストレージとしての信頼性は十分に確保されている点を雨堤氏は強調する。
このようにAX100は、高い信頼性とコストパフォーマンスの両面を兼ね備えたストレージソリューションを実現する。こうした特長を生かして、中堅・中小企業におけるストレージ統合を進めれば、バックアップやアーカイブ構築など、増加の一途をたどるストレージ管理のTCO削減に一役買うことができるだろう。
冒頭で述べたとおり、複数のサーバを運用し、各サーバにディスクを接続して、サーバごとにストレージを管理すると、ディスクの空き容量のばらつきが起こったり、バックアップの手間は増加したりする。サーバとディスクを分離し、AX100を導入して複数のサーバで物理的なディスクを共有すれば、ディスクの利用効率が大幅に向上するとともに、ストレージの管理コストを大きく圧縮できる。
具体的には、あるサーバ向けのディスク容量が不足したら、余裕のある別のサーバ向けに割り当てた容量を、管理ソフトウェアを使って不足したサーバに割り当て直すだけでよい。物理的なディスクの増設は不要であり、バックアッププロセスなどは影響を受けない。このようにAX100の導入により、ディスクの割り当てを弾力的に行えるようになり、結果としてディスクの利用効率が向上する。すでに説明したとおり、AX100は、導入コストも低く、特別な知識がなくともシステム管理者自身で運用・管理ができるように工夫されている。結果的に運用コストも抑えることができる。特に中堅・中小企業や大企業の部門のストレージ統合に最適な製品となっている。
図2■サーバに内蔵されているストレージをAX100に統合することで、ストレージの運用が弾力的に行えるようになる。AX100に標準装備されているスナップショット機能を用いれば、バックアップも容易だ
またミッドレンジクラスのネットワーク・ストレージに比べると、安価なシリアルATAディスクを利用できるAX100はディスクの容量単価が安価であるため、別システムのデータをバックアップしたりアーカイブしたりする用途にも向いている。すでにSANを導入した企業でも、あまり利用されなくなったデータをどのようにアーカイブ/バックアップして、システム全体のストレージコストを抑制するかが大きな課題となっている。EMCでは、情報ライフサイクル管理(ILM:Information Lifecycle Management)を推進しており、こうしたデータを、活用度に合わせた容量単価が安いディスク(メディア)へと移行させることで、ストレージコストの引き下げが可能であるとしている。
つまり大企業においては、ハイエンド/ミッドレンジ・クラスのSAN対応ネットワーク・ストレージ内のデータを、AX100へアーカイブ/バックアップすることで、ストレージシステム全体のコストを引き下げることが可能である。AX100は、テープバックアップ装置に比べるとデータ転送速度が速いため、バックアップ/リストア時間の短縮にもつながる。リストアする可能性が最も高い1次バックアップにAX100を利用すれば、いざというときの復旧時間の短縮にもつながるはずだ。
図3■AX100を利用することで、LANやサーバを介さずにバックアップが可能な「LANフリー・バックアップ」「サーバ・フリー・バックアップ」が可能になる
AX100は、エントリモデルとはいえ、高いコストパフォーマンスによって幅広い用途に利用できるものとなっている。これまでコスト面などからSANの導入に踏み切れなかった企業でも、AX100ならば導入可能だろう。特にiSCSIモデルならば、高価なFCスイッチやHBAが不要なので、導入の敷居は非常に低い。中堅・中小企業から大企業の特定用途に至るまで、AX100はこれまでになかった高いコストパフォーマンスを持つストレージ・ソリューションを提供してくれるだろう。
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