次世代スーパーコンピュータはLinuxにとって追い風か(2/2 ページ)

» 2005年09月27日 22時38分 公開
[Jay-Lyman,japan.linux.com]
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 IDC調査ディレクターのAddison Snell氏はインタビューの席で、HPCのベンダーと開発者の間ではLinuxの人気がつづくだろう、という見通しを語った。だが、アメリカ政府が推し進めている次世代ペタフロップスパコン計画では、クラスタとオープンソースオペレーティングシステムへの依存度が減るかもしれない、とも言う。

 同氏はまず、日本は今後も地球シミュレータのベクタプロセッサスパコン技術で行くだろうと述べた。そして、米国防総省高等研究計画局(DARPA)の将来スパコン戦略について、資金調達計画では1システムにつき約5000万ドルが見込まれていて、対象はCray社のCascade、IBM社のPERCS(生産的で、使いやすく、信頼できるコンピュータシステム)、Sun Microsystem社のHero計画に絞られている、と語った。

 Snell氏によると、このリストは来年末までにさらに1社ないし2社に絞り込まれるが、どのベンダーが生き残るにせよ、そこで使われるのは新しい技術である。

 「どれにもLinuxは使われないと思います。クラスタでもありません。根本的に異なる設計になるはずです」

 ペタフロップレベルのスーパーシステムの実現までに費やされる政府予算は、約10億ドルと見積もられている。どのベンダーにとっても到底無視できる金額ではなく、その政府予算の獲得に向けて、各社がしのぎを削ることになる。

 世界最強のコンピュータを判断するうえで、最速スパコントップ500リストは大いに参考になる。だが、テラフロップやペタフロップでHPCのすべてが語れるわけではない、とSnell氏は強調する。プロセッサの性能と計算速度が上がっていくにつれ、そのコンピュータパワーを使いこなすことがしだいに難しくなる。

 「多くのプロジェクトがありますが、そこではペタフロップ数だけでなく、その速度レベルで使えるアプリケーションと、そのアプリケーションの使い方が問題になってきます」

 IDCでは、最近、ペタフロップマシン用アプリケーションの開発状況を調査した。そして、開発能力はあっても、開発意欲に欠けているベンダーや開発者が多い、という結論を得た。要するに「やればできるが、うちはやっていない」というところばかりだ、とSnell氏は言う。

 「市場の最上層という、決して大きくはないセグメントのためにコードを書き直すかどうか。やる余裕の有無は別にして、ISVはあまりやる気を見せません」

 それでも、こと開発に目を移すと、Linuxの力は侮れない。Snell氏によると、最新の四半期リポートでも、HPC全体ではLinuxオペレーティングシステムの勢いがつづいている。

 「直近の四半期で、HPCシステムの半数はクラスタでした。そして、そのクラスタは圧倒的にLinuxクラスタですから、HPC全体ではLinuxがますます大きな役割を果たしていると言えます」IBMもHPもHPC戦略の中心にLinuxを据えていたし、Dellも足並みをそろえつつあった。だからこそ、Snell氏は各社が独自のHPC Linux開発に走ることに強い警告を発する。「プロプライエタリな閉じたUNIXが嫌で逃げてきたはずなのに、それでは元のもくあみじゃありませんか」

 「好きだからやっているという何百万人の開発者――こういう存在にはとても太刀打ちできません。Linuxでは開発が実にテンポよく進み、それが好まれます。ですから、HPCでもLinuxの役割が増大しつづけることは大いにありえます」

 IBMの研究センターでシステム担当副社長を務めるTilak Agerwala氏は、次世代スパコンでもLinuxの重用はつづくだろうと考えている。

 「一般的に言って、どの市場セグメントでもトレンドはLinuxです。ハイエンドでもコモディディクラスタでも、Linuxの導入と配備が目立ちはじめています。もちろん、RISC/UNIXなど、最後まで頑張るところもいくつかはあるでしょう。でも、純粋に技術的見地からすると、Linuxの成長はつづきますよ」

 次世代スパコンでも、それを背後から支えるミドルウェアスタックとツールにはLinuxの活躍する場面がある、とAgerwala氏は言う。「進化・発展の相当部分はLinuxプラットフォーム上で起こります」この言葉は、Linuxでのマルチスレッドコンピューティングを呼びかけるStrohmaier氏の言葉とも重なる。

 「国際的に見ても、ほんとうに優秀なHPCスタックというものはありません。スーパーコンピューティングでもLinuxが伸びる――わたしがそう考える理由の1つがそれです。そういうHPCスタックは、能力全開のLinux上に構築されるでしょう」

 Agerwala氏は国際競争の現状にも触れ、中国はオープンソースソフトウェアとオープンシステムに深く肩入れしており、スパコン計画でもLinuxを使う可能性が大きい、と述べた。また、日本について明確に言えるのは、ただ1つ、2010-2011年までにスパコンのレベルを10ペタフロップまで引き上げるつもりでいることだ、とも語った。詳細は不明なままだが、日本は連続5回もトップ500の1位を守りつづけた国であり、HPCの世界では一大勢力である。

 「こちらから果たし状を叩きつけたわけですから、日本としてもトップの地位を奪い返すことが使命だと感じているでしょう。壮大な挑戦ですね。しかし、それをやってのける能力のある国ですから、こっちもひやひやものです」

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