MITメディアラボ、「100ドルノートPC」のプロトタイプを11月にリリースへ

「世界中の子供たちにノートPCを」というプロジェクトを進めているMITが、100ドルのノートPCのプロトタイプを11月にリリースすると発表した。(IDG)

» 2005年09月29日 15時05分 公開
[IDG Japan]
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 米マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボの共同創設者で所長のニコラス・ネグロポンテ氏によれば、同ラボは11月に100ドルのノートPCのプロトタイプをリリースする予定という。同ラボは業界のパートナー各社と協力し、世界中、特に開発途上国の初等/中等教育の子供たち向けのノートPCの開発に取り組んでいる。このノートPCは2006年遅くには、量産が開始される見通し。

 ネグロポンテ氏は9月28日、MITのケンブリッジキャンパスで開催されたEmerging Technologies Conferenceで、「開発途上国で問題なのは接続性ではない。接続の問題はまだ解決はされていないが、Wi-Fiや3G、4Gなどの分野で多くの人々がこの問題に取り組んでいる。教育の面での障害はノートPCだ」と語った。同氏、および同氏の同僚は、世界中の子供たちにノートPCを供給することで、教育レベルを大幅に向上させ、子供たちに教室だけでなく学外でも学びたくなるような意欲をかき立てられると考えている。

 ネグロポンテ氏によれば、メディアラボは11月17日に開催される世界情報社会サミット(WSIS)で100ドルのノートPCのプロトタイプを発表する計画だ。WSISは、チュニジアのチュニスで11月16日から18日までの開催が予定されている。同氏は28日のMITのイベントで、このプロトタイプのスライドを紹介した。

 このノートPCは500MHzチップを搭載し、オープンソースLinuxの「簡易版」を実行する。画面はカラーと白黒、2つのモードで表示できる。ボタンを押すか、ソフトウェアスイッチを起動すれば、カラー画面を白黒画面に切り替えられ、ネグロポンテ氏によれば、明るい日光のもとでは画面は通常の4倍の解像度で表示される。同氏は、ディスプレイのコストは35ドル程度になると見積もっている。

 このノートPCはACアダプタと手回し式の2種類の充電方法が可能で、手回し充電のクランクはノートPC本体のヒンジ部分に格納される。クランク比は10:1となるため、子供でもハンドルを1分間回せば、10分間使用できる。ふたを閉じるとヒンジ部分は取っ手となり、ACコードは持ち運び用のストラップとしても利用できる。ネグロポンテ氏によれば、このノートPCは耐久性が高められ、おそらくラバー製となる。また、USBポートを4基搭載し、Wi-Fiおよび携帯電話に対応し、1Gバイトのメモリを搭載する。

 さらに各ノートPCはその場限りのピアツーピア(P2P)のメッシュネットワークのノードとして機能するため、1台のノートPCが直接インターネットにアクセスすれば、電源がオンになっているそのほかのマシンは、その1つのオンライン接続を共有できる。

 ネグロポンテ氏によれば、メディアラボは当初、ブラジル、中国、エジプト、南アフリカ、タイのほか、米マサチューセッツ州を対象に同ノートPCを供給する。マサチューセッツ州は全生徒にノートPCを供給することを決めたばかりだ。ネグロポンテ氏は2006年末までに、こうした市場向けに500万〜1500万台のノートPCの大量生産を開始したい考えだ。同氏は2007年12月には、商用ノートPCの年間出荷台数の3倍に当たる1億から1億5000万台のノートPCの生産を見込んでいる。

 ネグロポンテ氏は今年1月、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)で、こうしたノートPCの開発の先頭に立つべく、メディアラボから非営利のスピンオフを立ち上げた。この非営利組織はOne Laptop Per Child(OLPC)と呼ばれる。メディアラボとOLPCは現在、AMD、Google、News Corp.、Red Hatなど、同ノートPCの開発で多数のパートナーと協力している。

 「私は各国政府に対し、このノートPCの価格は流動的なもので、いずれ下がるだろうと語っている。100ドルではまだ高すぎる」とネグロポンテ氏。同氏によれば、企業各社に同PCの大量生産を納得してもらうだけの十分な受注を確実にするために、各政府は100万台のノートPCの料金を前払いする必要がある。ネグロポンテ氏は、そうした大量のマシンをどのように製造し、どのようにして最終目的地まで出荷するかについて、それ以上の詳細は明らかにしなかった。

 同氏によれば、このノートPCは、コンピュータのほか、電子ブック、テレビ、ライティング/ドローイングタブレットなど、各種の用途に使用できる。

 またネグロポンテ氏は、メディアラボが特に慎重になっている問題としてコンピュータのグレーマーケットを挙げている。「ノートPCが税関で消えたり、盗まれたりしないかは、我々にとって大きな問題だ。郵便局のトラックと同じくらい目立って盗みにくいマシンにする必要がある」と同氏。メディアラボは、さらなる盗難対策として、各ノートPCに所有者となる生徒の名前を印刷することまで考えているという。

 もう1つの懸念は、抑圧的な政権下の子供たちがオンラインアクセスに関してどのような状態に置かれるかということだ。「私は各政府に対し、私たちが売ろうとしているのはトロイの木馬であることを説明している」とネグロポンテ氏。実際、子供たちがインターネットで何にアクセスするかは、本人次第だからだ。同氏は、ノートPCとWebアクセスの導入により、世界中の教育課程がどれだけ変わることになるかを十分に理解している。「適切な状態に落ち着くまでには、何十年も掛かるだろう」と同氏。

 子供がポルノにアクセスする問題については、メディアラボは有害なオンラインコンテンツを阻止する最善の方法の開発に取り組んでいる。ただしネグロポンテ氏は人々に対して、メディアを責めないよう訴えている。「ポルノは印刷物を使っているが、印刷技術を発明したグーテンベルクは特に非難されていない」と同氏は冗談めかして語った。

 MITメディアラボはこれまでにも、セネガル、コスタリカなどで、子供たちにノートPCを供給するための数多くの取り組みにかかわってきた。またネグロポンテ氏はカンボジアで独自のプロジェクトも進めている。ただしメディアラボにとって、ゼロから開発したモバイルPCを世界に広めようという試みは今回が初めてだ。

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